東京都でプロボクサーとして奮闘する吉田実代さん(33)へ、鹿児島県・沖永良部島で暮らす祖母・昭美さん(89)の想いを届ける。リングで戦う孫について、「やっぱり心配です。病気などもですが、子どもを連れているものですから…」と昭美さん。以前は毎回試合に駆け付けていたが、足を骨折してからは行けなくなってしまったといい、「いつも神頼みばかりしています」と明かす。
実代さんはプロボクサーになって7年。「戦うシングルマザー」と呼ばれ、これまで輝かしい成績を残してきた。戦績は14勝1敗。連勝を続け、世界チャンピオンにまで上り詰めた。しかし、昨年12月の防衛戦で敗北。2か月後にタイトルを奪われた相手とのリベンジマッチが行われることになっている。「もう33歳。いつ現役引退するかわからない年齢だから、ベルトを取り戻すことしか考えていない」という実代さんは、世界王者を何人も輩出する名門・三迫ボクシングジムでの練習のほか、専門家の指導で肉体改造にも取り組み、世界王者の座を取り戻すため全てを投げ打ってトレーニングに励んでいた。何よりも支えになっているのは、母の強さを信じ続ける娘の実衣菜ちゃん(6)。前回の試合で初めて母が負ける姿を見て以来、子どもながらに重圧を感じている様子の実衣菜ちゃんに、「かっこいい姿、勝った姿を見せたい」と決意を新たにする。
鹿児島で生まれた実代さんは、幼い頃に両親が離婚し母親に引き取られた。中学を卒業してからは1人暮らしを始めるも、ずっと自分のやりたいことが見つからず、モヤモヤした毎日をおくっていたという。そんな中、偶然見つけた1枚のチラシ。それは格闘技を学ぶ海外留学の誘いだった。「『怖い』とか考える前に、自分を変えたかった」とハワイに留学した実代さんはそこで格闘技に魅せられ、2014年、プロのボクサーとしてデビューする。その後、結婚、出産、離婚を経験し、「戦うシングルマザー」と呼ばれるようになったのだった。「いろいろあっても何回でもやり直しはきくし、スタートはいつでも切れる」と話す実代さん。それを教えてくれたのは、いつも明るく前向きな祖母だった。今は沖永良部島から試合を観に来られない祖母のためにも、勝つことで元気を届けたい…そんな気持ちを胸に、世界王者奪回のリベンジマッチに挑む。
こうして迎えた決戦の日。厳しいトレーニングで肉体改造をやり遂げた実代さんだが、対戦相手との身長差は6センチもあり体格では不利な戦いとなることは必至。リングに上がると良い動きを見せるものの、相手に阻まれてパンチが届かず、チャンピオンのペースで試合が進んでいく。なかなか活路が見出せない中、最終ラウンドに全てを賭ける実代さん。最後まで死力を尽くした両者の試合は判定へともつれ込み…。
娘に支えられ、仲間に支えられ、実代さんは2-1の判定で王者の称号を再び取り戻すことができた。そんな激しい戦いを終えたばかりの孫へ、祖母からの届け物は沖永良部島の伝統菓子「ゆきみし」。島ではお祝いの場で食べられるおめでたいお菓子だ。実代さんは大好きな懐かしい味と、祖母が初めて想いを綴った手紙に胸がいっぱいになり、「私が元気をあげたいのにもらっている感じです」と涙をこぼすのだった。