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#6167月25日(日) 10:25~放送
オーストラリア

 2020年、オーストラリアの首都・キャンベラで日本大使館の公邸料理人として奮闘していた高見直樹さん(当時46)。妻のあいこさん(当時46)と二人三脚で、各国から迎えるゲストに向け料理の面から外交を支えていた。次に控える会食は、長年日本とオーストラリアの友好に貢献した人物の表彰式。カウラという200キロほど離れた街から、30人ほどのゲストが大使館にやってくるという。会食のメニューにはゲストの地元食材を使うというこだわりがある直樹さんは、カウラの食材を探すためあいこさんと共にキャンベラ市内の市場へ。公邸料理人にとっては、和食の味付けをゲストに合わせた味にアレンジするのが難しいポイント。さらにベジタリアンや宗教上食べられない食材があるゲストにも配慮する必要がある。そこで今回は、カウラ産のラム肉を使った寿司をメインに、食べやすい串料理、野菜だけのちらし寿司などを加えることにした。
 鳥取県で板前の息子として生まれた直樹さんは、中学を卒業すると大阪へ出て、いつか父と店を出すことを目標に料理人の修業に励んでいた。だが、父が脳梗塞で倒れ半身麻痺に。一緒に包丁を握るという夢が消えた失意の直樹さんを支え、再び料理に向かわせたのは、修業時代に出会い結婚した妻・あいこさんだった。やがて父との夢は夫婦の夢となり、ついに40歳で独立。こうして岐阜で構えた店は話題となり、1年先まで予約が埋まるほど繁盛していた。そんなある日、在オーストラリア大使館の大使が来店。「公邸料理人として一緒にオーストラリアへ行かないか」と提案される。任期は3年。心配もあったが、自分の視野を広げて経験していないことをやってみたい…思い悩む直樹さんを後押ししたのも、「主人の料理は無敵」と夫の味を信じるあいこさんだった。
 いよいよ迎えた会食の当日。ビュッフェ形式のテーブルには、カウラの食材を使用したメイン料理を中心に全13品を並べた。会食中はあいこさんが会場をチェックし、料理の減り具合や全体の雰囲気に目を配る。ラム肉の握りをはじめ、和にアレンジされたカウラ産素材はゲストから高い評価を受け、会食は大成功をおさめた。
 直樹さんが大切にしているのが、親子2代で4~50年は使っているという包丁。父から譲り受けた包丁がだんだんと馴染んで、自分の物になってきたと感じるという。そして「『父の分も一緒にやってるよ』という気持ちはある。父の背中を見て入った世界。父を尊敬しているし、この世界に入って良かったなって本当に思います」と自身の想いを明かす。料理人として道半ばで倒れた父の想いも背負い、今や料理で日本の外交を支える直樹さんへの届け物とは、手作りのパンとDVD。収められた映像には、今なお料理に携わりたいと、リハビリ施設でパン作りに励む父の姿があった。直樹さんは「任期が終わって日本に帰ったら親孝行をしないと…」と静かに誓ったのだった。
 あれから1年。直樹さん(48)とあいこさん(48)は現在、長崎県に滞在しているという。2020年11月に大使と共に帰国した2人は、新たな食材探しや生産者に会うため、北海道から沖縄まで日本全国を回っているのだそう。最終的な目標は、オーストラリアで自分たちのレストランを開くこと。リモート中継を結び、2人の想いを聞いたぐっさんは、「大成功を願ってます。オーストラリアに行ったら寄らせてください」とエールをおくった。