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#6157月18日(日) 10:25~放送
ブラジル

 2014年、南米初のオリンピック開催に向け盛り上がるブラジルのリオ・デ・ジャネイロで、柔道のコーチとして奮闘していた藤井裕子さん(当時32)。ブラジル柔道連盟に依頼され、技術コーチとしてオリンピック出場を目指すナショナルチームの指導と育成を行なっていた。ブラジル人女性で初めて世界選手権優勝を果たしたラファエラ選手は教え子。彼女は貧困層から世界を目指す選手として注目を集めていた。リオではファベーラと呼ばれるスラム街で暮らす人々に無料で柔道を教える取り組みを行っており、ファベーラに隣接する形でスポーツ施設が作られている。ラファエラ選手はこの施設で柔道を始め、裕子さんの指導でメキメキと頭角を現した期待の星。オリンピックで金メダルを獲得するというラフェエラ選手の夢は、裕子さんの夢でもあった。
 裕子さんは5歳で柔道を始め、高校では全国大会3位になるなど優秀な成績を収めてきた。だが「今思うと、勝ちにこだわりがなくて試合に向かない選手だった」という。24歳で現役を引退し、イギリスに語学留学していたとき、手伝い程度にと大学でコーチを始めたのが人生の転機に。そこで出会った柔道大国であるフランスの指導者が「とてもキレイな柔道を指導していた。私もそういう風に教えたいと思ったのが、指導の仕事にのめり込むきっかけだった」と明かす。指導力の高さを見出された裕子さんは、イギリスのナショナルチームからスカウトを受け、ロンドンオリンピックではイギリスに12年ぶりの銀メダルをもたらした。その実績を買われ、30歳の時にブラジル柔道連盟からコーチのオファーを受ける。しかしブラジルに渡る直前、妊娠が判明。日本の母は仕事と育児の両立ができるのか心配したが、裕子さんは初めての土地で、初めての出産・育児をすると決意したのだった。道場の片隅にはいつも“主夫”として妻を支える夫の陽樹さん(当時27)と9か月の息子・清竹くんの姿がある。
 ブラジルに渡って1年半、子育てと責任ある仕事に全力で取り組み、多忙な毎日をおくる裕子さん。どれだけ大変でも弱音を吐かず奮闘する娘のもとに届いたのは、幼い頃に母がよく読んでくれたお気に入りの絵本。最後のページには母から「初めての子育て、楽しんで元気な子に育ててくださいね」とメッセージが綴られていた。裕子さんはそんな想いに触れ、「やっぱり母親は何があっても応援してくれるんですね」と涙を流したのだった。
 あれから7年。ぐっさんがリオの自宅にいる裕子さん(38)とリモート中継をつなぐ。今もナショナルチームの指導を続ける裕子さんは、2018年にブラジル柔道の男子代表監督に抜擢された。外国人女性が指導者のトップに立つのはブラジル史上初のことだという。ぐっさんは「身体の大きい男子の指導は大変なのでは」と心配するが、逆に彼らより小さな裕子さんがデモンストレーションすることで技の効果をわかりやすく伝えることができて、それが自身のアドバンテージでもあると話す。現在、家族は1人増えて、夫の陽樹さん(34)と7歳になった清竹くん、3歳の長女・麻椰ちゃんの4人暮らし。陽樹さんが変わらず主夫として裕子さんをサポートしている。かつて裕子さんが指導していたラファエラ選手は、リオオリンピックに地元ブラジル代表選手として出場し、念願の金メダルを獲得したという。そして裕子さんは間もなく迎える東京オリンピックに向け、「ブラジルに来てずっと一緒に練習してきた選手の集大成だと思っている。今、目の色を変えて頑張っているので、彼らの後押しができるような力になれれば」と抱負を語る。