2011年、手つかずの自然が残るニュージーランドのウエストコーストで氷河ガイドとして働いていた中泰一郎さん(当時28)。世界中から訪れる観光客が旅の拠点とするフランツ・ジョセフの街にあるツアー会社に所属していた。街から車でわずか10分の場所にあるのが、横幅最大1キロ、全長11キロにもわたるフランツ・ジョセフ氷河。夏場の気温が20度を越えるため、半袖でも歩いていけるという世界的にも珍しい氷河だ。その氷河をガイドする泰一郎さんの重要な仕事が、ルートを切り開く作業。大自然が作り出した氷河は起伏が激しく足場が悪いため、階段を作ったり、クレバスの隙間を埋めたりと事前に整備しなければならない。世界各国からやってくるツアー客の数はハイシーズンには1日400人以上にもなり、参加者の中には初心者やお年寄りも。誰でも安全に氷河を楽しんでもらうために、毎日3時間ほどかけてルートを整備してから客を出迎えている。そんなツアーの目玉は、自然が作った美しい氷のトンネル、アイスケーブ巡り。泰一郎さんは「こういう所にお客さんを連れて行けるのが面白い。みんなが笑顔で『今日は良い一日だった』という風になったら…。そういう時、この仕事は最高だと思いますね」と、氷河ガイドの魅力を語る。
幼い頃から家族でスキーやカヌーに親しんできた泰一郎さん。大自然を相手にしたアウトドアの仕事に憧れ、日本でもスキーパトロールやラフティングガイドなどさまざまな仕事に就いてきた。そして、より魅力的な場所を求めてたどり着いたのがニュージーランドだった。自宅は世界遺産の森に隣接する大自然の中の一軒家。恋人の貴美子さん(当時30)とガイド仲間の3人でシェアして暮らしている。近所にもガイド仲間がたくさん住み、仕事が終わった後も集まってはクライミングウォールなどを楽しんでいる。仕事もプライベートも充実した理想の暮らしを実現する一方で、心の中でずっと引っかかっているのが、北海道の実家のこと。泰一郎さんは3代続く農家の長男だった。「まだあまり言われませんが、家族は家業を継いで欲しいと思っているはず。そろそろ本当に決めないといけない…」。そんな泰一郎さんに届いた父からの手紙。「お前がやろうと決断したことなら、父さんたちは応援する」という言葉に涙した泰一郎さんは、「心が決まりました。このまま僕の道を行こうと思う」と決意したのだった。
あれから10年。ぐっさんと中継をつないだ泰一郎さん(38)は、ニュージーランドの南島にあるミルキーブルーの水面が美しいプカキ湖のほとりにいた。2018年にニュージーランドで日本人初となる国際山岳ガイド資格を取得した泰一郎さん。プライベートでは2015年、同棲していた貴美子さんと結婚した。結婚式を挙げたのは、なんとフランツ・ジョセフ氷河の中腹にある山小屋。ウエディングドレス姿の貴美子さんと一面雪景色の岩場に立つ写真を披露し、ぐっさんを驚かせる。そんな夫婦の間に生まれた娘は両親の山好きを受け継いでいるようで、現在3歳にしてすでに登山やロッククライミングを楽しんでいるという。
また10年前の取材時には家業を継ぐべきか決断を下したが、北海道の実家は今どうなっているのか?泰一郎さんがその後を明かす。そして、「ニュージーランドをベースにして、海外のガイドの仕事をやっていきたい」と、これからの夢をぐっさんに語る。