今回の配達先は、鹿児島県。奄美大島で獣医師として奮闘する伊藤圭子さん(43)へ、愛知県に住む母・節子さん(73)、姉・佳代子さん(47)の想いを届ける。佳代子さんは妹について、「元々口下手な方。獣医は飼い主さんとやりとりをしないといけないのに、どうやっているのだろうと思う」と不思議がり、節子さんも「実際に様子を見たことがないので…」と、島にどう溶け込んでいるのか知りたいと話す。
豊かな自然と美しい海が広がり、この地域にしかいない貴重な動植物が数多く生息することから"東洋のガラパゴス"とも呼ばれる奄美大島。圭子さんがスタッフと2人だけで運営する「奄美いんまや動物病院」は開業してまだ1年足らずだが、町の中心から少し離れた場所にあるにも関わらず、確かな知識と技術、そして動物への愛情が評価されひっきりなしに患者が訪れる。あるときは、草むらに潜むハブに噛まれた猫が急患としてやってきた。圭子さんは役場からの依頼で野生動物の治療も行っており、病院には動けなくなっていたところを保護されたオオミズナギドリや、奄美大島の固有種で絶滅危惧種に指定されているアマミノクロウサギが持ち込まれることも。また現在、島で社会問題になっているのが、放し飼いや放棄が原因で野生化した猫が希少動物を襲ってしまうという事態。その対策のひとつとして、野良猫に避妊手術を施して元の場所に戻す取り組みを行うが、一方で葛藤もあるという。「命を救う仕事をしているけど、9割ぐらいの猫は見捨てている。その罪の意識が消えることはない」。そう話す圭子さんは、1匹でも多くの猫を救いたいと野良猫を保護し譲渡する活動にも力を入れる。将来のことまでしっかり考えてほしいと、引き取り希望者にはあえて厳しい言葉をかけるが、これまで100匹以上の譲渡を成功させてきた。
小学生の頃、共に暮らした2匹の愛犬たちはかけがえのない存在であり、動物の仕事がしたいと思うようになったきっかけだった。大学時代に奄美大島に魅かれ、東京で獣医師として働いた後、2013年に移住を決意。家族には事後報告で、命に関わる仕事をしているという責任感から島を離れることはほとんどなく、父の葬式にも行かなかった。夫の洋輔さんとは20年以上の付き合いを経て、1年半前に入籍。洋輔さんは仕事の関係で千葉県にいるため、実は出会ってから一度も一緒に暮らしたことはないのだが、洋輔さんも「心配はしていない。一度言い出したら聞かないし、強い芯を持っているので」と彼女を理解する。
ある日、圭子さんは診療のため奄美大島の東に位置する人口7000人程の小さな島・喜界島を訪問。島にはペットを診る動物病院がないため、滞在する4日の間には診察や手術の予約が60件近くも入っている。誰に頼まれたわけでもなく、2年前から2ヶ月に1度程のペースで始めた出張診療。「別にやらなければここで猫や犬が不幸になって死んでいくだけ。それをわかっていて、放っておいていいのか?っていったら誰もが否定するだろうし、自分がやりたいからやっているだけ」。クールに話すが、保護猫が無事引き取られて行くときはいつも涙がこぼれ落ちる。1匹でも多くの動物の命を救うため、離島の獣医師として自分ができることを日々模索し奮闘する圭子さん。家族の前では無口な娘へ、母の想いが届く。