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#5901月17日(日) 10:25~放送
オーストリア・ウィーン

 2019年、オーストリアで声楽家として奮闘していた鈴木玲奈さん(当時30)。首都・ウィーンは、モーツァルトやベートーベンなど数多くの巨匠が活躍したクラシック音楽発祥の地。玲奈さんは1905年に創立され、ウィーンでも最古の歴史と権威を誇る音楽学校「プライナー音楽院」に通い、楽曲が作られた時代背景や歌詞の捉え方などを教える歌曲解釈の大家であるワルター・モーア先生から指導を受けていた。「モーア先生に習いたくてウィーンに来た」という玲奈さん。先生は「彼女はとても才能があって良い声を持っている」と認める一方、「ただ譜面通りにうまくやるだけでなく、曲を自分のモノにする表現力が大事だ」と指摘する。
 ピアノ講師だった母親の影響で幼少からクラシックを身近に聴いていた玲奈さんは、高校から本格的に声楽を始め、母と同じ東京音楽大学に入学。様々な学生コンクールで優秀な成績を収め、大学・大学院を首席で卒業する。2017年には国内で最も権威ある日本音楽コンクール声楽部門で優勝するなど輝かしいキャリアを積んだ後、さらなる飛躍を目指してウィーンに武者修行へ。しかしこの1年、本場の舞台を夢見て数多くのコンクールに挑戦するも、いまだ結果を残せず悔しい日々が続いていた。次に出場するのは、「リューバ・ヴェリッチ国際声楽コンクール」。国籍、性別を問わない100人以上の申し込みの中から最終審査に勝ち残った9人で争われ、コンクールとしては小規模ながらレベルの高い出場者が揃う。さらにオペラのプロデューサーや作曲家、指揮者らが審査員を務めるため、彼らの目に留まれば仕事につながる可能性も。大きなチャンスを前に、玲奈さんは勝負曲としてオペラ「ホフマン物語」に登場するゼンマイ仕掛けの人形・オランピアが歌うアリアを選んだ。高音で細かく音程が変化するうえ、人形らしい動きをあえてコミカルに演じ、時には客席の笑いも誘う難しい歌曲。玲奈さんが得意とする高音とキュートなキャラクターを活かせる一方、課題である表現力が問われる選曲だった。挑んだ本番では、ウィーンで過ごした1年の集大成としてハイレベルな高音と作品の世界観を見事に表現。満場一致での優勝を果たす。ついに壁を破り、新たなステージの第一歩を踏み出した玲奈さん。それでも「ゴールはない。まだまだ頑張ります」と、いつかは世界最高の舞台である憧れのオペラ座で歌えたらと夢を語った。そんな娘へ母から届けられたのは、「コンコーネ50番」の楽譜。声楽家なら誰もが通る入門書で、音大時代に母が使ったものを何度も修復して親子二代で学んだ思い出の楽譜だった。自身の音楽の原点であり、二人三脚で歩んできた母からのメッセージに玲奈さんは涙を流した。
 あれから2年。その後、玲奈さんは日本に帰国後CDデビューし、音楽番組などメディアでも活躍していた。2020年には再びウィーンに行く予定もあったが、新型コロナウィルスの影響で実現しなかったという。2月末からは実に22公演のコンサートがキャンセルに。そんな中でこの日は、群馬県の高崎市で行われるベートーベン「交響曲第9番」の公演にソリストとして招かれていた。玲奈さんに会うため、ホールを訪ねたぐっさん。今の想いをぐっさんに明かす玲奈さんは、「コロナの期間を経て、広い空間で歌えるのは本当にうれしい」と喜び、ステージで歌声を披露する。