今回の配達先は、沖縄県。久米島の馬牧場で奮闘する藤井菜摘さん(24)へ、長野県に住む父・操さん(62)、母・博美さん(50)の想いを届ける。「本当に仕事になっているのかなというのは心配ですよね」と操さん。博美さんも、「沖縄は私たちも行ったことがないし、ましてや久米島って…どんなところなのかとか、いっぱい気になるところはあります」と娘の様子を気に掛けている。
沖縄本島から西におよそ100キロの位置にある久米島は、島民は8000人、車なら1時間足らずで一周できる小さな島。菜摘さんは3年前に移住し、島内にある「久米島馬牧場」で働いている。久米島馬牧場は、2012年に大阪出身の井上さん夫婦が絶滅の危機に瀕している沖縄の在来馬・与那国馬の復活と保護を目指して、島にわずか2頭だけ残っていた与那国馬から始めた小さな牧場。一般的な牧場とは違い、柵で囲われた敷地ではなく耕作放棄地などの空き地に馬を放牧して飼育している。こうすることで馬は自由に暮らしながらお腹いっぱいに草を食べることができて、同時に、成長が早く放っておくと森になってしまう草木の繁殖を抑えられるのだという。元々農耕用だった与那国馬は、畑仕事で使われることがなくなったため一気に激減。現在牧場では与那国馬とトカラ馬、在来馬と外国産馬のミックスの計17頭を所有するが、日本の在来種は全部合わせても2000頭ほどしかいないのだそう。仕事がなければ後世まで在来馬を残すことはできない。そこで沖縄という土地柄を考え、牧場の馬たちには観光用の乗馬としての価値を与えて保護を進めている。菜摘さんも3年経った今ではすっかり馬の扱いも上達し、乗馬ツアーを任されるように。馬の背にまたがり、沖縄の海や森など大自然を満喫するツアー。のんびりと流れる非日常的な時間が来る人たちを癒している。
菜摘さんと在来馬との初めての出会いは、故郷の長野県だった。地元の在来馬・木曽馬の魅力に取りつかれ、高校卒業後に動物の専門学校へ進学。“在来馬を守る活動ができたら”と思っている中で知った井上さん夫婦の取り組みに共感し、久米島に押しかけ働くようになった。現在は専門学校時代の親友と一緒に暮らし、島の古民家を買い取って動物と触れ合えるカフェを作る計画もある。また牧場でも築100年の古民家をゲストルームなどに利用しようと、島民とともにリフォームを手掛けている。島は年々住む人が減っているため、集落のあちこちには使われなくなった民家がある。そこで島民と移住者たちが協力し、過疎化が進む集落の再生に取り組んでいるのだ。地元の人も「なっちゃんが頑張って、他の人たちがまた来るようになって…久米島中で一番活気があるのがこの集落じゃないかと評判になるぐらい」と喜ぶ。
馬の世話からツアーのアテンド、リフォームの大工仕事まで、毎日様々なことを精力的にこなす菜摘さん。思いのままに人生を楽しんでいるが、実は小・中・高校時代はいじめにあい、将来に悩みを抱えていた。母親に辛く当たることもあり、久米島に来る前はまったく違う生活をおくっていたが、今は「本当にここに来てから、好きにしていいんだなと思えるようになった」と明るい。ただ一方で、長女として何もできていないことを申し訳なく思っているともいう。沖縄で新たな人生を踏み出し、自分らしくいきいきと日々を送るそんな娘へ、母の想いが届く。