今回の配達先は、チリ。首都・サンティアゴで暮らす鰐部麻里絵さん(35)へ、愛知県に住む父・清一郎さん(67)、母・美智枝さん(63)の想いを届ける。麻里絵さんがチリへ渡って9年。清一郎さんは「治安があまり良くないみたいで…」と現地での生活を心配している。国の情勢が不安定なうえに、シングルマザーとして2人の娘を育てていることから、美智枝さんも「私たちは日本に戻ってきなさいって言っているんですけども…」と明かす。
南北に細長いチリ。中央部に位置するサンティアゴは、スペイン統治時代の歴史的建造物が数多く残り、南米だけでなく様々な人種が集う。そんな街の一角にある市場に、習字を書いて売る麻里絵さんの姿があった。お客さんの名前を漢字やカタカナにした作品は異国のアートと捉えられているようで、現地の人々は興味津々。だが麻里絵さんは書道家というわけではなく、絵画やイラスト漫画を描いたり、時には地元のファッション誌や世界的アパレル企業のCMにモデル出演するなど様々な仕事をしている。6歳と4歳の元気な娘は片時もじっとしておらず、フルタイムで働きに出たくても子ども2人を見てもらう金銭的な余裕はない。そこで自宅にいながらできることは何かと考え抜いた結果、編み出したのが今の「寄せ集めの仕事」。自分にできることは何でも仕事にしている。小さい頃から母親に「普通と違うことをしなさい」と育てられ、お絵描きや習字、日本舞踊などいろいろな習い事を経験。それらが意外と今につながっていると感じている。
美術大学に進学した麻里絵さんは、19歳のときに大学を休学して世界一周の1人旅へ出た。日本を飛び出して4カ国目、チリのイースター島で人生が大きく転換する出来事が。夫となる人に出会い、大恋愛に発展したのだ。そして彼と共に日本へ一旦帰国し、美大を卒業してから改めてチリへ移住。娘たちも生まれて、親子4人貧しいながらも幸せな日々をおくっていた。しかし夫の失業をきっかけに揉める事が多くなり、遂には夫が出て行き8年の結婚生活が終焉。一時は鬱状態になったというが、残された子どものために一念発起し、最近では様々な仕事に加え自宅で日本語レッスンも行うようになった。実はチリでは最近、祖国を離れたいと願う人が増えているようで、外国語のレッスンが人気なのだそう。チリは貧富の差が激しく、ごく一握りの富裕層以外の不満が爆発。サンティアゴの街中ではデモ活動が頻発し、デモに参加するか、国を離れるかの二極化が進んでいるという。連日、家のすぐ近くでも激しい抗議活動が繰り広げられているが、麻里絵さんは「みんなで力を合わせて変えていこうとしているのが本当にすごい」と人々のパワーに心を動かされるという。
離婚したことで娘の心が不安定になることもあるが、「日本では体験できないことを感じたりするのが好きなので、チリにいたい。子どもにとっては良いことか悪いことかわからないけど、もし悪いことがあるならすぐ軌道修正しようと。自由に楽しく子どもといたい、それが第一」という麻里絵さん。チリで恋に落ちて、結婚し、離婚。そんな地で生き抜くことを選び、子どもたちの幸せのためにあらゆる手を尽くす。逞しく、全力で生きる娘へ、日本の両親が届ける想いとは。