2018年、タイでゾウ使いとして奮闘していた大亦理絵さん(当時34)。タイ北部最大の都市・チェンマイはバンコクに次ぐ観光都市で、理絵さんは中心地から車で約2時間の山の中にある「メーサー」というエレファントキャンプで修業し、活動していた。かつてタイでゾウは人間とともに運搬などの仕事に従事していたが、自動車の発達などにより需要が激減。そんなゾウやゾウ使いの受け皿として各地にエレファントキャンプが設立された。観光客を相手に行うエレファントショーを中心に、その売り上げでゾウたちを保護している。ゾウ使いは担当するゾウが起きてから寝るまで常に行動を共にするのが基本。理絵さんはプンサップという名前の6歳のメスのゾウを担当し、ショーの調教のほか、エサやりから1日3回の水浴びまで付きっきりで愛情を注ぐ。体重1.8トンもあるプンサップとのショーは危険と隣り合わせだが、日常の信頼関係がそれを可能にしている。
2006年に美術大学を卒業した理絵さんは、イタリアのファッションブランドにカメラマンとして就職し、その後フリーに。だが10年が経った頃、あまりの激務で心の病に陥ってしまう。その頃、ふと訪れたスリランカでゾウと出会い人生が大きく変わった。イタリアに戻るやいなやすべてを捨て、ゾウ使いになるためタイへ。そこまでゾウに惹きつけられるのは「人間が怖い」からだという。人よりも動物と一緒に過ごしたいと思うようになったのは、両親によるトラウマも一因だった。一人娘として溺愛されて育ち、自身も期待に応えようとしてきたが、大学受験では両親が望む医学部に合格しながらも実家を離れ、東京の美術大学へ進学。「何でお前は普通に育たないんだ」と言われ続け、親とは喧嘩が絶えなかった。
ゾウ使いとして活動を始めて5年。昨年、同じキャンプで働く山岳民族出身の男性・チシさんと結婚し、夫が生まれ育った村に新居を構えた。エレファントキャンプから車で5時間の場所にある家は、首長族で知られるカレン族の昔ながらの住居で、電気もガスも水道もない。そんな山深いこの地に引っ越したのは、近々ゾウを迎え入れるためだという。“自給自足の生活をしながら家族とゾウと暮らす”という夢が現実になろうとする今、「楽しくて仕方がない」と笑顔の理絵さん。そして、日本から届け物をくれた母へ「私はここで不自由なく幸せなので、心配はしないでください」とメッセージを送ったのだった。
あれから2年。カレン族の村にいる理絵さんとリモート中継をつないで、ぐっさんが現在の様子を聞く。新型コロナウィルスにより、タイでは動物がいる施設は閉鎖を余儀なくされ、エレファントキャンプも一時的に閉鎖。理絵さんが愛情を注いでいたプンサップは8歳になったが、月に数回しか会えない状態が続いている。だが、なんとプンサップはこの期間にテレビ電話を学習し、スマートフォンで会話を続けているという。ゾウと一緒に暮らす計画については、コロナによって逆にチャンスが訪れたといい、「来年の夏までには」と夢の実現が間もなくだということを明かす。