今回の配達先は、鹿児島県。屋久島で画家として奮闘する向井晶子さん(45)へ、兵庫県明石市に住む母・ヒロミさん(78)の想いを届ける。
鹿児島本土から南へおよそ65キロ、世界自然遺産に登録される屋久島は、映画「もののけ姫」の舞台にもなった白谷雲水峡など、幻想的な世界と大自然にあふれる島。晶子さんは12年前に東京から移住した。現在は、人里離れた山奥にある自宅兼アトリエで、今年2月に入籍したポルトガル人の木工アーティスト・アンドレさん(38)と暮らしている。彼女が描く絵のテーマは、大自然が作り出す“生命の源”。そして最大の特徴が作品に使う画材で、絵の具ではなく、島の自然の素材を使って絵を描くという異色のアーティストだ。色の美しさに惹かれたという赤土を水に溶き、数千年もの歴史を刻んだ島の自然美や大地の生命を描写した大きな作品を制作している。またある時は、地元の人しか知らない海岸へ赴き、島特有の砂鉄を採取。木製のボードに砂鉄を貼り付けるという方法でオリジナルのアートを生み出す。赤土や砂鉄以外にも油絵や水彩画など様々な表現と技法を用いて、屋久島の生命を作品へと昇華させてきた。
小さい頃から絵が大好きで、中学から美術を勉強し始めた晶子さん。神戸の芸術系大学を卒業後、東京のデザイン事務所に就職する。だがグラフィックデザイナーとしては芽が出ず、30歳を前に退職。その後、旅行で訪れた屋久島の大自然に魅了され、「この島で絵を描きたい」と33歳のときに移住した。厳しかった母親に対するコンプレックスも屋久島に渡った理由のひとつだったといい、実家の明石に戻ることは選択肢にはなかった。母親からはほめられた記憶もなく、弱音が吐けない環境が「正直しんどかった」と明かす。島に来てすぐ、晶子さんはメールで「お母さん、私のこと産んでよかった?」と尋ねたことがあった。だが母からは返事がなく、もう一度聞き返すことはなかったという。そんな娘の話を聞いて、「こういう風に思っていたのかと…軽く受け止めていたのだと思う」と母・ヒロミさん。晶子さんの絵については、「以前は上手とも思っていなかった」と手厳しいが、「今は個展を開くごとに素晴らしい絵になっている」と認める。
晶子さんの作品は島内にある登山用具店の一角で展示販売されている。屋久島出身のオーナーが晶子さんの絵を気に入り、スペースを提供してくれているのだ。また個展を度々開くようになってからは徐々に作品も売れるようになってきた。それでもまだまだ余裕はなく、貯金を切り崩しながらやりくりしているというが、「“売れそうだから描く”は嫌。描きたいものを自分にウソをつかずに描いていけば、必ずどこかからサポートが入る。それは『もっと自然のメッセージを広げてね』と言ってくれているのだと思う」と語り、自然の声を受け止めながら自分の表現を追求する晶子さん。母が暮らす明石には戻らず、たどり着いた屋久島の地で新しい人生を見つけた娘へ、初めて届けられた母の想いとは。