今回の配達先は、フィリピン。子どもたちの貧困に向き合うNPO団体代表の西側愛弓さん(25)へ、兵庫で暮らす父・正英さん(61)、母・起世さん(59)の思いを届ける。
首都・マニラから車で約2時間の場所にあるパヤタス地区はフィリピンでも最も貧しいスラムの一つ。都市部から出たゴミが毎日数千トンも運び込まれる廃棄物処理場があり、周辺の衛生環境は劣悪。さらにゴミ山でゴミを拾って売ることで生計を立てている住民もいる。愛弓さんはそんなスラム街で活動し、2015年から貧困地域の子どもたちをモデルにしたファッションショーを開催。今年で7回目となるショーには、オーディションで選ばれた60人が出演する。1回目から企業の協賛金とメンバーの実費でイベントを行っているが、まだ大学生だった5年前はスポンサー探しに苦労したといい、「女子大学生が何を言っているんだ」、「貧困層の子どもにファッションは必要ない」などと言われたことも。逆風の中、100以上の企業や団体に電話を掛け何とか開催にこぎつけた。ショーが始まると、はじめは緊張していた子どもたちが胸を張って堂々とウォーキングを披露し、愛弓さんは「ファッションでこんなにも人が変化する。やっぱり重要なものだ」と確信。その時に見た子どもたちの表情が、今もショーを続ける原動力になっている。
高校時代まで夢中になれるものが見つからず、部活や勉強に打ち込む同級生たちに対してコンプレックスを抱いていた愛弓さん。自分が打ち込めるものは何かと真剣に考え、思い浮かんだのが元々興味のあったファッションだった。世界のファッションを見てみたいとアルバイトでお金を貯め、大学在学中にヨーロッパや中南米など十数カ国を歴訪。そこで出会った人々の楽しそうな姿からファッションの魅力に改めて気付く一方で、どの国にも服を着ていない子やボロボロの服の子どもがいるという現実を目の当たりにする。そこで、自分を変えてくれたファッションの力で今度は子どもたちに夢を与えたいとの思いを持ち、フィリピンへ渡ったのだった。そして現在の活動の原点となったのは、どんなときも優しく見守ってくれていた両親の存在だと感謝する。その言葉に「親としてうれしい」と話す父の正英さん。母の起世さんは、娘が高校生のころ悩んでいた姿を振り返りながら、愛弓さんが世界に踏み出すことになったあるきっかけを明かす。
準備に奔走し、いよいよ迎えたショー当日。子どもたち同様、イベントを心待ちにしていた家族や貧困地域の人々が続々と会場に集まり、ステージには衣装を着て初めてスポットライトを浴びる子どもたちの姿が。彼女らに芽生える自信が熱気となって、会場全体を包み込んでいた。ランウェイで自分を表現するという経験が子どもたちと貧困地域の未来を変えると信じる愛弓さん。さらに今年は、子どもたちが夢を持つだけでなくそれを叶えられる環境づくりをしたいと、活動を次のステップに進めるための一歩を踏み出した。本当に正しいことをしているのか、悩みながらも自らを変えてくれたファッションの力で貧困支援の新たな道を模索し続ける娘へ、両親の思いが届く。