今回の配達先は、ブラジル。サンパウロでフットサルコーチをしている古庄亨さん(41)へ、京都に住む母・昭美さん(67)の思いを届ける。「フットサル選手を引退した後、急に『ブラジルに行くから』と。理由も聞いていない」と昭美さん。今も息子からの連絡はほぼ無く、現地でフットサルを教えているのかなと思っていたら、一方で「喫茶店をオープンした」などという話を耳にするそうで、「何をしているのか、全然掴めない状況です」と苦笑いする。
プロのフットサル選手として、日本やブラジル、タイでプレーした経験を持つ亨さん。引退後はコーチに転身し、3年前からはブラジルを本拠地に活動している。南半球最大の都市・サンパウロは数多くの日本企業が進出する南米経済をけん引する街だが、ここ数年は景気が低迷し治安も極端に悪化。日本人駐在員の子どもが屋外で安心して遊べる場所は、セキュリティがしっかりしたマンションの敷地内しかなく、亨さんのフットサル教室もそういった場所でしか開くことができない。そんな現状を知る亨さんが運営しているのが、「ブラジル未来塾」という小さな塾。治安の悪いサンパウロで安心して過ごせる放課後を提供するというコンセプトの下、日本人駐在員の子どもたちにスポーツ教室や習い事を、家族向けには音楽やダンスなどカルチャー教室を開いている。
32歳で所属チームからの契約が打ち切られた亨さん。引退後の人生を模索した後、2016年にフットサルコーチの職を求めてかつてプレーしていたブラジルにやってきた。当時サンパウロには何のつてもなかったが、仕事を求めてなりふり構わず町中を歩き、日本企業を訪ねて回るなどビジネスチャンスを探し続けたという。そこで日本人駐在員の子どもたちが置かれた状況を耳にした亨さんは、フットサル教室を手始めに、この地に暮らす日本人のニーズに応えるビジネスとして「ブラジル未来塾」を立ち上げたのだった。始めてみると、教室や習い事だけでなくありとあらゆる要望が亨さんの元へ寄せられるように。さらに、子どもの習い事を待つ母親たちのため、未来塾の下の階に本格的なカフェをオープン。新たな店舗の展開も考えるようになった。「何に対しても真剣に向き合う」と決めた亨さんは様々な仕事や自己啓発に取り組み、生活はアスリート時代から一変。ただどんなに忙しくても、週に一度は必ずフットサルのキーパーを育てる教室に通い、若者に交じってレッスンを受けている。フットサルへの情熱は今も消えず、現役時代が一番幸せだったと本音も。かつて、母の昭美さんは遠くの試合でも足を運び応援してくれていた。親子にとってはその時間が最大の接点であり、「母にはもう少し現役の姿を見せてあげたかった」と申し訳なく思う気持ちもあると話す。
開業して3年足らず、ブラジルで出会った人々の要望に真摯に向き合うことでようやく生きる道を見つけた亨さん。「これまで後悔や悔しさが残っている分、それを少しずつ埋め始められている感覚。感謝されることなどの積み重ねで、ぽっかり空いたものが埋まってきている」と語る。とはいえ、胸を張って報告できる理想の姿にはまだ道半ばだという息子へ、母が届ける想いとは。