今回の配達先は、アメリカ・ニューヨーク。ネイルアーティストとして活躍する川尻メイさん(36)へ、京都に住む父・象司さん(69)、母・千恵子さん(64)の思いを届ける。
世界中から才能が集まり、ファッションやアートなど様々なカルチャーの最先端を発信し続けるニューヨーク。そんな街で、メイさんは新進気鋭のネイルアーティストとして大注目されている。本人も「想像ができるものは作ってないと思います」と話す通り、ネイルの材料は通常のものだけにとどまらず、ネジやフックを使ったり、たくさんのバービー人形の靴をぶらさげたり…そんな斬新なアイデアと奇抜でポップなデザインが支持され、数々の有名ブランドがショーや広告に起用。さらにアカデミー賞女優など、世界的なセレブからも指名を受ける。いつもネイルに必要な道具一式をカバンに詰め込んで、客の元へと出張。ある日は、メイさんの腕を見込んで依頼したというクラブで女装のパフォーマンスを行うドラァグクイーンの自宅を訪ねた。まずは現在の主流であるジェルネイルや、古い方法ながら高い技術力が求められるアクリルスカルプチュアーなど、複数の手法を駆使して大柄な彼女の指にベースとなる爪を付け足していく。そしてデザインは、相手と対話しながらその場のアドリブで考えるのがメイさんのスタイル。今回は彼女のステージネームにちなんだ炎のグラフィックをフリーハンドで描くことに。さらに同系色のラインストーンを貼りつけて立体感を加え、広いステージでも存在感を放つネイルアートが完成。ステージ映えというオーダーを見事に叶えた。
川尻家の長女として生まれ、美穂と名付けられたメイさん。高校の頃、ネイルアートに興味を持ち専門学校に進学。わずか23歳の若さで原宿にネイルサロンをオープンし、ネイルアーティスト「川尻メイ」と名乗り多忙を極める日々をおくっていた。やがて29歳でニューヨークに進出。来たばかりの頃から自分の存在や才能をアピールするため、作品を身につけて歩くことで自身が広告塔になった。自分のセンスは世界一の街でも通用する、その確信があったものの、はじめは英語でのコミュニケーションに自分のことが理解されているのか不安を感じていたという。しかし自らが表現する独自のアートで周囲を納得させ、彼女の才能を認める人の輪はどんどん広がっていったのだった。
「ニューヨークにはずっと居たいと思ってる。やっぱり“何かが起きる”っていうワクワク感が今は大好き」と語るメイさん。今やネイルアート界のトップランナーだが、現在の自分があるのは日本の家族、とりわけネイルアートの世界を志したときに背中を押してくれた母のおかげだという。母の千恵子さんは、娘について「常に負けず嫌いで、人と一緒は嫌という感じだった」と言い、健康のことを心配しながらも、ニューヨークという場所が「あの子には合っているのかもしれない」と暖かいまなざしを向ける。渡米して7年。小さな身体ひとつで成功への階段を駆け上がり、今や世界を舞台に活躍する娘へ、母の想いが届く。