今回の配達先は、西アフリカの国・ブルキナファソ。アフロコンテンポラリーダンスを学ぶ吉田燦さん(21)へ、静岡に住む母・香さん(48)の思いを届ける。アフロコンテンポラリーダンスとは、力強いアフリカンダンスに現代的な表現をミックスしたもの。芸術性の高さがヨーロッパで評価され、世界的にも注目され始めているが、このダンスを専門で教える学校は世界でまだ2つしかない。香さんは「娘が行くとなった時は、聞いたこともないような国だったのでハテナでいっぱいになった」と当時の戸惑いを明かし、「生活の様子、学校での様子、何を食べているのか…すべてが知りたい」と何も伝えてこない娘の日常を心配する。
約20年前に西アフリカで誕生したアフロコンテンポラリーダンスは、ジャンベなど民族楽器の生演奏で踊り、楽譜には書き表せないようなアフリカ独特のリズム感が特徴。燦さんは2018年にダンス学校があるブルキナファソへ渡った。日本人の生徒は1人だけ。そもそもアフリカ人の高い身体能力と特有のリズム感から生まれたダンスであり、日本人の燦さんが身につけるのは並大抵のことではない。だが学校の責任者でアフロコンテンポラリーの第一人者でもある先生のサリアさんは「燦さんにはダンスの素質は十分にある」と評価し、「この先の課題は新しいものを生み出す『創造力』を身につけることだ」と期待する。
母の勧めで小学1年生からクラシックバレエを習い始めた燦さん。人生が変わったのは中学2年生の時。地元・静岡で行われたダンスイベントに参加して、初めてアフロコンテンポラリーダンスを踊った。クラシックバレエとは対照的に型にはまらず自分を表現できるダンスに衝撃を受けた燦さんは、ダンスの演出をした世界的パイオニアのニヤカムさんに「どうしてもプロになりたい」と訴えかけ、学校を紹介してもらったのだった。現在は、プロのダンスカンパニーに入って世界で活躍するダンサーになることを目標に日々練習に打ち込んでいる。近く行われる学校のダンスイベントでは、観客の前で学んだ内容を発表。授業の一環とはいえ注目度は高く、ダンスカンパニーの関係者も訪れスカウトされる可能性もあるという。
燦さんが1歳の時に両親が離婚。その後、母の香さんは飲食店で働きながら女手一つで娘を育ててきた。実は、香さんとは1年間だけの約束でブルキナファソへ渡り、毎月仕送りもしてもらっているが、この地に留まりもうすぐ2年。さらに将来はどうするのか、いつ日本に帰るのかなど今後のことは一切伝えていない。「お母さんには申し訳ないけど、もうちょっとアフロコンテンポラリーを学びたい。でも、3年目は出来るだけ自分で稼ぎたい」と燦さん。今は地元の人に日本語やバレエを教えるアルバイトをして、少しずつ自立を目指している。
いよいよ迎えたダンスイベント当日。会場には続々と客が集まり、アフロコンテンポラリーダンスに目覚めるきっかけを作ってくれたニヤカム先生の姿もあった。ブルキナファソにやってきてもうすぐ2年。燦さんはこの環境に身を置くことでしか体験できないことを目一杯、全身で感じ踊り続けている。何も語らず、遠く離れた地で道を模索する娘へ、母が届ける想いとは。