今回の配達先は、フィリピンのボホール島。ダイビングガイドとして奮闘する尾上未夏さん(37)へ、神奈川に住む母・則子さん(70)の思いを届ける。
7000を超える島で構成される国・フィリピンの中で、ボホールは10番目に大きい島。人気観光地のセブ島から船で2時間ほどのところにあり、手つかずの大自然が生み出す絶景が今、世界中の注目を集める穴場のリゾートアイランドだ。この島のダイビングショップで働く未夏さんは、「マリンダイビング」という日本の雑誌でベストガイド1位に選ばれるほどの凄腕ダイビングガイド。2013年の初受賞から毎年のようにナンバー1に輝くという快挙を達成し、その技量を求めて日本からも多くの客が訪れる。ある日のコンディションは、海の透明度が落ちてしまうあいにくの曇り空。そこで未夏さんはこの天候だからこそ楽しめる特別なダイビングを用意し、さらに潮の流れや時間を読んでウミガメの珍しい姿が見られるポイントへと案内する。そんなガイドに常連客も大満足。未夏さんは「どんな方とも一番楽しめる自信がある。『次もまた一緒に潜ろうね』と言ってもらえるとすごくうれしいし、やりがいを感じる」と話す。
未夏さんがこの道に進むきっかけとなったのが、海を愛した今は亡き父の存在。当時まだ珍しかったダイビングをしていた父・薫さんが語る海の話に、幼い頃の未夏さんは胸を躍らせたという。「父親が見ていた世界を見てみたい」と大学卒業後、ダイビングガイドを目指して海外へ。経験を積み、ボホール島のショップからガイドの仕事に誘われたことから移住を決意した。しかしその矢先、父の体にがんが見つかる。父のそばにいようと未夏さんは日本に留まろうとしたが、その背中を押してくれたのは他ならぬ父だった。母の則子さんは、薫さんが倒れた当時について「娘は一時帰国してくれたが、主人は『家の方に来てほしくない、そのまま頑張ってくれ』と言っていた」と回想する。そして、現在の未夏さんの様子に「頑張っているなあと。生き生きしている姿を見てほっとしました。ボホールの環境がありがたいし、日本にいたらこんな元気で明るい子に育っていたのかなと思う」と微笑む。
人懐こくて優しい島の人々とともに生活し、いつの間にかこの島から離れられなくなった未夏さん。3年前には仕事を通じて知り合ったジョージさんと結婚し、今は息子の蓮清くんと3人で暮らしている。2歳の蓮清くんは未夏さんの影響で、日本のお祭りが大好き。自身も同じように父に影響され大の祭り好きになった未夏さんは、蓮清くんが神輿の動画を見ては掛け声をまねする様子に目を細め、息子に父と自分の関係を重ねる。
いつしかボホール島の海だけにとどまらず山や森にも魅了されていった未夏さんは、ダイビングだけでなく陸上のツアーガイドとしても活動。そしてこの島で暮らし、子を持つ親になったことで新たな夢が芽生えた。豊かな自然や優しい人々という日本から来て初めて自分が感じた島の魅力、その感動をより多くの人と共有したいとの思いで、37歳にして独立というチャレンジへの一歩を踏み出したのだ。すべての原点は、幼き日に家族で海水浴に行った時に父が語って聞かせてくれた海の魅力。父への想いを胸にこの島で生きる覚悟を決めた娘へ、母が届ける想いとは。