今回の配達先は、アンドラ公国。世界最高峰のサーカス団「シルク・ドゥ・ソレイユ」でエアリアル・ティシュー・パフォーマーとして奮闘する品川瑞木さん(21)へ、東京に住む父・敏幸さん(59)、母・かずえさん(53)の思いを届ける。
アンドラ公国は、1993年に独立したばかりの小さな国。ピレネー山脈の中腹に位置し人口はわずか7万人ほどだが、ヨーロッパ各地から訪れる観光客は年間1000万人にも。その首都、アンドラ・ラ・ベリャでは瑞木さんが出演するシルク・ドゥ・ソレイユのショーが1カ月間にわたって開催されている。瑞木さんが演じるのは、天井から吊るされたティシューと呼ばれる布を使用する空中パフォーマンス「エアリアル・ティシュー」。10メートルもの高さを命綱なしでたった1枚の布に体を預け、華麗に、そしてダイナミックに舞を披露する。カナダ・モントリオールに本拠地を構える世界的サーカス団、シルク・ドゥ・ソレイユはアクロバティックなパフォーマンスとダンスが融合した芸術性の高いショーが特徴で、今回も世界中から集まった超一流のパフォーマーたち、およそ30人が出演。フリーのパフォーマーとしてプロデビューしてまだ1年目の瑞木さんにとって初めての大舞台で、スタッフは瑞木さんの演技を「普通のエアリアル・ティシューはソフトでゆったりとした感じだけど、彼女はダイナミックで強さがあって、まるで忍者のようだ」と評する。
幼い頃に見たシルク・ドゥ・ソレイユに衝撃を受けて以来、同じ舞台に立つことを夢見ていた瑞木さん。母が見つけてくれた東京にあるエアリアル・ティシューのスクールに通い出すとすっかり夢中になり、熱い思いを抑えられず高校を2年で中退。17歳でモントリオールへ渡り、本場のサーカス学校に入学した。母のかずえさんは当時について、「高校を卒業してからでもいいんじゃない、と言ったけど『それでは遅い』と言われた」と振り返り、さらに「1年で何とかするように」と送り出した後の、娘の驚きの行動力を明かす。
サーカス学校でめきめきと実力をつけた瑞木さん。実は在学中に、憧れのシルク・ドゥ・ソレイユから2年契約のオファーを受けたが、希望するエアリアル・ティシューでの出演ではなかったため契約を断ったという。そして昨年、トップの成績で卒業しフリーのパフォーマーとして生きる道を選んだ瑞木さんは、名前を売るため出場したサーカスの世界大会で3位に。その実力を知ったシルク・ドゥ・ソレイユから、改めてエアリアル・ティシューでの出演をオファーされたのだった。
アンドラでの公演のチケットは完売。客席は常に5000人の観客で埋め尽くされている。1時間のショーの中で瑞木さんに与えられた持ち時間は7分。全観客の視線が彼女一人に注がれる。フリーのパフォーマーにとっては1回1回のショー全てが勝負。連日の大舞台だが、瑞木さんは「毎回ステージに出る前は『なんでこんな事やってるんだろう』と思うけど、終われば『楽しかった、もう1回やりたい!』って思う」と笑う。1カ月の公演を終えると、感傷に浸る間もなくスーツケースひとつで次の開催地へ。定住する家すら持たず、世界を渡り歩いていく。幼い頃から憧れた舞台に立ち、世界の第一線で活躍するパフォーマーとして第一歩を踏み出した娘の元へ、母が届ける想いとは。