今回の配達先は、イタリアの首都・ローマ。靴職人として奮闘する吉本晴一さん(40)へ、大阪に住む父・孝司さん(70)、母・明美さん(64)の思いを届ける。
ローマ郊外に自宅兼工房を構える晴一さん。身長が194センチある晴一さんの頭が天井についてしまいそうな3階の屋根裏部屋が作業場だ。2年前に立ち上げた自身のブランド「ペルティコーネ」で手掛けるのは、ビスポークというオーダーメイドの高級紳士靴。足を採寸したデータを元に木型を作成し、客によって異なる形状をすべてハンドメイドで仕上げていく。アッパーと呼ばれる甲の部分は、木型に革を沿わせ一本一本釘を打ちつけて成型。さらにハンドソーンウェルテッドという数百年前からある製法で、アッパーと靴底をひと針ひと針手で縫い合わせる。「ハンドソーンで作られた靴は言葉にできないオーラがある。既成靴にはないたたずまいで、実際に中も違う」と晴一さん。まさに世界に一足だけの靴は注文から完成まで1年ほどかかる場合もあり、値段は一足34万円から。希少なワニ革を使う場合は70万円ほどになるという。
晴一さんが靴職人を志したのは、ある悩みがきっかけだった。幼いときから体が大きく、現在の足のサイズは30センチ以上。高校時代にはすでに既成靴が入らなくなっていた。そんな頃に心を奪われたのが海外のビスポーク靴。雑誌で見たその靴を買うためにアルバイトをしたり食費を削ったりしたほどで、靴が好きだという自覚はその時期に生まれたのだという。大学卒業後は服飾関係の商社に就職するも、靴への憧れが抑えられず、3年で退職して単身イタリアへ。しかし何のつても情報も無く、最初は苦労の連続だった。とにかく直接工房を訪ねて回り、熱い思いだけを支えに一軒一軒しらみつぶしにすること7カ月。貯金も底をつきかけた頃、遂に受け入れてくれる人に出会い弟子入りする。そして修業を重ねながら自らの靴作りを10年以上模索し続け、2017年に自身のブランドを立ち上げたのだった。
10年前まで蕎麦店を営んでいた父の孝司さんは、晴一さんの職人としての歩みを見て「グッと入り込むところが僕にちょっと似ているかな。僕は突き詰めすぎて無駄な方向へ曲がってしまうこともあるけど、彼はまっすぐ行ってくれている」と感心した様子。まだ靴を作ってもらったことはないそうだが、母の明美さんは「あれだけ手間暇をかけて、体を酷使して靴を作っているのに『ちょっと作って』とは言えないかな」と、ためらいながらもうれしそうな表情を浮かべる。
イタリアへ渡って14年、今年ドイツで開かれた靴の国際コンクールでは金賞を獲得した。今や国外からも顧客が訪れ、ゼロから始めた靴作りがようやく実を結び始めた晴一さん。情熱だけを武器に本場で認められる靴職人となった息子の元へ、父が届ける想いとは。