今回の配達先は、アメリカ・ニューヨーク。鮮魚・飲食店を経営する原口雄次さん(38)へ、栃木県に住む母・和子さん(63)、祖母・ハルさん(89)、妹・直子さん(35)の思いを届ける。
ニューヨークの中心地、マンハッタンからイーストリバーを渡ったところにあるブルックリン地区は、高級住宅街が続く昔ながらの閑静な街。この地で雄次さんは鮮魚店「OSAKANA」を経営している。ニューヨークの一般的な鮮魚店で売られる魚は加熱処理を前提としたものがほとんどで、刺身専用の魚を扱う文化そのものがなかったという。そこで雄次さんの店では、ケーキを売るディスプレイを魚用に改造し、湿度と温度を管理したショーケースで刺身を販売。さらに、店に来てもらうきっかけとして魚のさばき方や寿司の握り方を教える料理教室を開催し、ニューヨーカーに人気を博している。この店を始めて2年半、今では家で刺身を楽しむ人が増えてきたという。そんな鮮魚店から歩いて5分の場所には、雄次さんが経営し、「23歳の時に思い描いた僕の夢のレストラン」だと言うこだわりの和食店「OKONOMI」が。朝は鮮魚店のキッチンでさばいた魚を持ち込んで、焼き魚定食を販売。夜は仕込みで残った魚のアラをスープにした「ツナコツラーメン」を看板メニューに、一匹の魚から無駄を出すことなく美味しい料理を提供している。
大学時代、アメリカに留学していた雄次さんは、「アメリカでレストランを開きたい」という夢を持ち、まずは経験を積むためボストンの水産加工会社に就職。そこで山積みにされ捨てられるマグロの骨を目にして「もったいない」という思いを抱き、これをビジネスにつなげようと決意する。試行錯誤の末、魚のあらゆる部位を使ったラーメンが完成。ラーメンは人気を呼び、店を持つまでになった。やがて「『もったいない』という言葉自体が、食文化に限らず日本人の考えとしてこっちの人にもっとストレートに響いてもいいんじゃないか」と考えた雄次さんは、『もったいない』を料理のコンセプトとして、一匹の魚を無駄なく使う“魚ビジネス”を展開。現在では鮮魚店と和食レストランのほか、寿司店とスーパーの中に鮮魚販売用のサテライト店舗を出店している。
小学校から高校まで、野球一筋だった雄次さん。プロ野球選手になることを夢見ていたものの断念し、その後得意の英語を活かしたいとアメリカに留学する。そんな息子をずっと応援してくれていたのが、難病に侵され10年間の闘病の末に他界した父・睦雄さんだった。大変な状況でも留学させてくれた家族には、「だからこそ絶対結果を出さないと父親にも申し訳ないし、頑張らなければと思った」と当時の心境を明かす雄次さん。母の和子さんは「主人も承知で行かせたので、そのまま留学を続けて最後まで行ってちょうだいねと言っていた。なので、今があるのは主人のおかげかなと思います」と振り返る。
独創的なアイデアと日本文化が融合した魚ビジネスで、ニューヨーカーのハートをつかむ雄次さん。順風満帆にも見えるが、物価の高いニューヨークで4店舗を構え、多くのスタッフを抱えるプレッシャーは相当なものだという。それでも、常々「自分がやりたいことに情熱を注げ」と言っていた父の言葉を胸に、自らのスタイルで挑戦を続ける息子へ、母が届ける想いとは。