８年前、アメリカのアトランタで新体操のコーチをしていた篠原奈美枝さん（当時４２）。中学から新体操を始めた奈美枝さんは、大学を卒業するまでの１０年間競技を続け、インターハイで３位、日本代表の強化選手にも選ばれたトップクラスの選手だった。夫・稔さん（当時４３）はジョージア工科大学応用生理学部の准教授で、筋肉と神経の関係性を調べてスポーツ選手のトレーニングやリハビリなどに役立てる技術を研究する。そんな稔さんの仕事がきっかけで、一家は１０年前にアメリカへ移住。娘の枝令菜ちゃん（当時１０）は奈美枝さんと同じ新体操クラブに所属し、オリンピックを目指してヘッドコーチである元ロシア代表のアンナさんから厳しい指導を受けていた。　　　
　６歳から本格的に新体操を習い始めた枝令菜ちゃんがこれまでに大会で獲得したメダルは６０個。さらに、クラス別のジュニアオリンピックでは全米１位に輝き、アンナさんからの期待も大きい。一方で、奈美枝さんはアンナさんが見られない他の選手のフォローをするセカンドコーチという立場。娘を直接指導することができず複雑な思いもあるが、枝令菜ちゃんが新体操を始めて以来１日も欠かさず母娘２人だけのトレーニングを続けていた。時には、練習の厳しさから枝令菜ちゃんが泣き出すことも。「泣き出したときはママになってほしいんだと思う。でも２人の約束では、新体操の時間はコーチと選手。頑張ってはいるけど、そこが一番難しい」と、奈美枝さんの心はコーチと母の間で揺れ動く。そんな奈美枝さん自身も、かつて挫折しそうになったことがあった。その時に父に言われたのが、「奈美枝は新体操を好きで始めたはず。自分で決めたことを途中で辞めると、これからも何かやろうとしても、すぐに諦める人間になるだろうな」…その言葉に奮起し、新体操を続ける決心をしたのだった。
　夢に向かって頑張る枝令菜ちゃんを夫とともに支える奈美枝さん。その奈美枝さんの選手時代を同じように支えてきた日本の両親からの届け物は、母のフミ子さんが撮影していたビデオ。高校時代、競技に臨む奈美枝さんの姿が収められていた。添えられた手紙には、父・三夫さんの想いが。「いつか枝令菜が壁にぶつかったとき、このビデオを見て選手時代を思い出し、枝令菜の立場になって応援してあげてください」と綴られていた。奈美枝さんは「新体操を続けてきてよかった。今の私がいるのは、お父さんとお母さんのおかげ」と涙を浮かべ、両親に感謝した。
　あれから８年。奈美枝さん（５０）は以前所属していたクラブから独立し、家族３人で新たにクラブを立ち上げていた。現在は１３人の子どもたちに新体操を教える指導者として活躍する。１８歳になった枝令菜さんは、父・稔さん（５１）の職場でもあるジョージア工科大学に進学。新体操選手としては、なんとアメリカ代表１０人のうちの１人となり、東京オリンピック候補として強化選手の仲間入りを果たした。奈美枝さんのサポートで、その後も数々の大会で優秀な成績を収めるなど十分な実績を積んでいた枝令菜さん。しかし、アメリカ代表を決める大切な大会で思わぬトラブルが起こっていたのだった…。大きな環境の変化を家族の絆で乗り越えてきたこの８年。コーチとして母として懸命に走り続ける奈美枝さんの姿、そして枝令菜さんが思い描くこれからの夢とは？