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#4991月27日(日)10:25~放送
ドイツ

 今回の配達先はドイツ。トロンボーン奏者として奮闘する吉田なを美さん(31)へ、京都に住む母・和恵さん(62)、祖母・久恵さん(83)の思いを届ける。なを美さんはドイツ北西部にある小さな街・ヘルフォルトのオーケストラ「北西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団」に所属。世界のオーケストラの中でもとりわけ忙しいと言われる楽団の年間公演数はおよそ120回にも及び、ヨーロッパを中心に1年の3分の1は演奏活動を行っている。なを美さんが演奏するトロンボーンはオーケストラでは目立つことが少ないが、人の声に近い音域と合奏によって生まれる美しい音色から“ハーモニー楽器”と呼ばれ、他の楽器と合わさることにより壮大な演奏を生み出す。ただ、男性よりも力が弱く肺活量も少ない女性のトロンボーン奏者はまだ珍しく、楽団に3人いるトロンボーン奏者の中でなを美さんは唯一の女性だ。
 なを美さんと楽器の最初の出合いは、4歳から始めたピアノ。しかし、小学校の時にたまたま見たトロンボーンの演奏に心惹かれたという。その後両親が離婚し、女手一つで子どもを育てるため仕事で忙しい母となかなか会えぬ寂しさを紛らわすように、なを美さんはトロンボーンの練習に熱中していった。中学に上がる時、なを美さんが母親に唯一ねだったのが、トロンボーン。当時、無理を言って買ってもらったその楽器は今でも大切にしている。
 中学、高校と吹奏楽部でトロンボーンを続けたなを美さんは、プロを目指して東京音楽大学へ進学。アルバイトを掛け持ちして学費と生活費を稼ぎ、練習に打ち込む毎日をおくっていた。しかしお金も体も限界、辞めようかと考えていた2年生の時に転機が。ドイツ在住の先生からレッスンを受けに来ないかという誘いがあり、学費が無料のドイツなら続けられるとベルリンの大学へ行くことを決意した。それまでがむしゃらに働いてなを美さんを支えてくれた母は、この時も笑顔で送り出してくれたという。
 ドイツに渡って11年。順風満帆に見えるなを美さんだが、今のオーケストラに入るまでに受けたオーディションは実に50回を数え、食べ繋いでいくため日本食のレストランでアルバイトをするなど苦労の連続だった。現在は楽団の演奏のほか、楽器工房とアーティスト契約を結び、自身のアイデアを取り入れたトロンボーン「なを美モデル」が完成。女性でも軽く持てて吹きやすいよう改良したオリジナルモデルを携え、次のコンサートに臨む。「今まで応援してくれた家族やサポートしてくれた周りの人がエネルギーになって頑張ってやってこれた。だから今ここで音楽と生活ができていることが、この上なく幸せ」と語るなを美さん。その様子を見た母の和恵さんも「良い顔してましたね。うれしい」と笑顔に。「娘の苦労は知っていたので…何もしてやれず、『大丈夫やで』としか言ってあげられなかった」とかつての日々を思い返す。
 長く遠い道のりを経て、ようやく夢を掴んだなを美さん。心の支えだったトロンボーンが生きる糧となり、演奏家としての人生が始まったばかりの娘へ、ずっと応援し続けた母の想いが届く。