今回の配達先は、南フランス。ホテル再建を託され奮闘するシェフの大畑鉱平さん(38)へ、千葉に住む母・栄子さん(68)の思いを届ける。プロヴァンスは温暖な気候と豊かな自然に恵まれたフランス屈指の人気リゾート地。この地方の小さな村・フォンヴィエイユに鉱平さんがシェフを務めるホテル「ベレソ」がある。夏場のバカンス客向けに作られたリゾートホテルだが、経営状態が良くなかったところを現在のオーナーが買い取り改装。8か月前から再スタートを切り、ホテル立て直しの切り札として鉱平さんがレストランの責任者を任されたのだった。パリをはじめ都会からやってくる人のため、新鮮な羊肉や裏山で採れたハーブなど地元のものにこだわった食材をふんだんに使用した料理を提供。さらに時間を見つけては農場へ赴き、この土地ならではの食材を探し求め、そこからアイデアを得て週に1、2種類は新作メニューを考案している。他では味わえない料理の数々は客からの評価も上々。鉱平さんは「まだ自分の思い描いた料理にはたどりつけていない」と言うが、まずはレストランに来る客を増やして、いずれは「レストランに来たいからホテルに泊まる、となってくれれば」と目標を掲げる。
精力的に料理と向き合う鉱平さんだが、高校時代は将来の道を見つけられずにいたという。夢もなく、大学に行く意味も見いだせず悩んでいた鉱平さんを心配しながらも何も言わず温かく見守ってくれていたのが、父・等さんだった。そんな頃、書店で見つけた学校案内をきっかけに、鉱平さんは調理の専門学校へ進学。そこで「自分の腕で人を喜ばせる、食べた人を幸せにする」という料理人の生き方を学び、「これが本当に就きたい仕事だ」と光が見えたのだった。料理の道に進んだ動機を知らなかったという母の栄子さんは「高校の頃、全く勉強をしなくなって私はオロオロするばかりだったが、主人は子どもを信頼して応援していたと思う」と振り返り、今の鉱平さんの様子に「やりたい仕事が見つかってよかった。安心しました」と話す。
日本で修業した鉱平さんは、9年前にフランスへ渡る。そしてパリの星付きレストランなどでがむしゃらに経験を積み、38歳となった今、プロヴァンスで初めてシェフとして店を任された。この地を一番に見せたかったのは、今は亡き父。フランスで働く息子の料理を食べたことがなかった父は、3年前フランスを訪れる予定でチケットも手配していたが、渡航前に心筋梗塞で倒れ急逝。“料理対決”をする話も出ていたほど楽しみにしていたというが、念願はかなわなかった。そんな父に見守られ見つけた料理の道に進んでもうすぐ20年。今は自分の腕でホテルを再建するという目標に向かって進み続ける鉱平さんへ、母の想いが届く。