今回の配達先はチェコ。東ヨーロッパを代表する芸術の都・プラハで彫刻家として奮闘する大成哲さん(38)へ、東京に住む父・浩さん(79)、母・栄子さん(69)の思いを届ける。
伝統的な彫刻が施された歴史ある建物が並び、街全体が博物館と称されるほど美しいプラハには、かつて社会主義政権下で彫刻家が支援された影響もあって、街の至るところに彫刻作品が置かれている。そんな中心地から少し離れた場所にある若いアーティストが集まるエリアに、哲さんはアトリエを構える。アトリエには様々な大きさの石や木とともに、建築現場からもらい受けた廃材などもあり、これらすべてが作品に生まれ変わるのだという。チェコに来たことで彫刻の幅が大きく広がったという哲さん。特にチェコはガラス工芸の本場で、プラハの美術大学に来てガラスが彫刻の素材となることを初めて知り、我流でガラスを彫る技術を編み出した哲さんは、アトリエで1枚のガラス板を切子のようにカットしていく。さらにもう一枚同じサイズのガラス板には、ハンマーで叩いて放射線状にひびを入れた。自然に生まれた“ひび”と、それをイメージした人工的なデザインの“ひび”。2枚のガラスの“ひび”を光で浮かび上がらせ、対比させるように展示するこの作品は、プラハで話題のアートホテルに展示される。ただし、今回は自らの売り込みで展示にこぎつけたので報酬は無し。こうして作品を世に出し、地道に自分の名前を売ることが収入にもつながっていくというが、哲さんいわく「彫刻を作ってそれをお金に変えてやっていくのは大変。それだけで生活できるのは1%未満」と、現実は厳しい。
新進気鋭の彫刻家として着実に歩みを進める哲さん。しかし、そこには乗り越えがたい大きな壁があった。それは、有名な彫刻家である父・浩さんの存在。哲さんは幼い頃から彫刻家になることが当然のような環境で育ったという。浩さん自身は、息子に「彫刻をやれと言った覚えはない」と言う。ただ「仕事に対する姿勢ややり方をやって見せて、自分が“逃げない”“ブレない”この2つを息子の前で見せる必要があった」と振り返る。
哲さんにとって父親はずっと重荷でしかなかったという一方で、自分の中に目覚め始めた“ものづくり”への情熱。複雑な思いを抱えたまま哲さんはチェコへ渡り、ひたすら彫刻に向き合い創作に没頭する日々をおくる。そんな中、哲さんに大きな出会いが。それはチェコの大作曲家・ドボルザークの曾曾孫で、クラシック音楽の仕事に携わるアントニン・ドボルザークさん。偉大な先人と同じ道を歩むという自分と似たような境遇の人物との出会いをきっかけに、父との葛藤を抱えていた哲さんはひとつの結論にたどり着く。「作るのが好き、やってるのが好き、やってる自分も、出来た物も好き。それがたまたま“彫刻”なだけだった」。チェコで自分の歩むべき道を見出した哲さん。もがき続けた息子へ、父からの届け物が…。