今回の配達先はアメリカ。ファッショントレンドの発信地・ニューヨークでシューズデザイナーとして奮闘するピロ貴子さん(46)へ、東京に住む父・圭介さん(75)、母・宗子さん(73)の思いを届ける。
最寄り駅はタイムズスクエア駅という、マンハッタンのど真ん中に建つビルに、貴子さんがデザイナーを務めるシューズブランド「モダンバイス(Modern Vice)」はある。ワンフロアを丸ごと靴工場として使用し、ニューヨークで唯一型紙作りから裁断、縫製に至るまで靴作りの全工程を自社で行う。皮やエナメルを多用したクラシカルでいてエッジが効いたシューズは、世界的歌姫のビヨンセをはじめ、多くのセレブが愛用。貴子さんはモダンバイスの専属デザイナーとして、すべての靴のデザインを任されている。新商品のデザインにとりかかる貴子さんは、靴の木型にマスキングテープを貼り、そこへ直接モチーフや柄を描き入れていく。一般的なデザイナーの常識とはかけ離れた手法だが、職人にイメージを伝えやすいこのデザイン法は貴子さんの強みでもあるのだ。
貴子さんの実家は、祖父の代から続く東京・銀座の老舗靴店。3人姉妹の次女として生まれ、中学から大学まで美術系の学校で学ぶうちに靴をデザインする面白さに気付き、卒業後は実家でデザイナーとして働くことを決意する。ところが、創業者の孫が携わることに周囲から“どうせ”と言われる風当りが辛く、外の世界へ出て自分一人でやりたいとの思いを強くした貴子さんは、靴作りの本場イタリアへ。靴を一から学ぶため、靴作りの名門校「アルス国際製靴学校」に入学し、主席で卒業を果たす。そんな貴子さんをずっと応援し、支えてくれていたのが父の圭介さん。貴子さんは、尊敬する父が祖父から受け継いだ伝統や意思を大切にしたいと、卒業してからもヨーロッパ各地で修業を重ねた。そしてシューズデザイナーとして独り立ちした貴子さんは結婚、出産を経て、再び新たなチャレンジに向かうためニューヨークに乗り込んだのだった。しかしこれには大反対だった圭介さん。「またゼロから始めなければいけないことに対する不安はあったし、心配もした」と当時を語る。
両親の反対を押し切り海を渡った貴子さんは、モダンバイスで働きながら自分の世界観を自由に表現したいと、2年前に自身のブランド「サークルスリー(Circle3.nyc)」を立ち上げ、ファッションシーンへの挑戦を本格的にスタートさせた。サークルスリーのスニーカーは、今年8月からマンハッタンのセレクトショップでも販売がスタート。自ら販売員として店頭にも立ち、「デザインからお客様に届けるところまで一貫して全部できることが幸せ」と話す。日本で家業こそ継がなかったものの、ファッション最先端の地で靴の仕事を受け継ぐ貴子さん。そんな“三代目”の娘へ、日本の父の思いが届く。