今回の配達先はタイ。ゾウ使いとして奮闘する大亦理絵さん(34)へ、和歌山に住む父・博さん(80)、母・敦子さん(78)の思いを届ける。
理絵さんが活動するのは、タイ北部最大の都市・チェンマイから車で約2時間、首長族として知られるカレン族の村があるエレファントキャンプ。かつてゾウは人間とともに材木の運搬などの仕事に従事していたが、需要が激減したことからゾウやゾウ使いの受け皿としてタイ各地にエレファントキャンプが設立された。観光客を相手にサッカーやお絵描きなどエレファントショーを行い、その売り上げでゾウたちを保護している。山4つ分の広大な施設の敷地内にはおよそ90頭のゾウが暮らす。ゾウ使いの多くは山岳民族・カレン族の男性たち。理絵さんはキャンプで唯一の女性のゾウ使いで、ここで修業を積んできた。ゾウ使いは、担当するゾウが起きてから寝るまで常に行動を共にするという。理絵さんが担当するのは6歳のゾウで、名前はプンサップ。ショーの調教のほか、エサやりから1日3回の水浴び、体調管理まで付きっきりで愛情を注ぎ、プンサップにとっても理絵さんはなくてはならない存在になっている。昨年、理絵さんは山岳民族出身の男性と結婚した。ゾウ使いとして活動を始めて5年、すっかり村の生活にも溶け込んでいる。
理絵さんは大学卒業後イタリアへ渡り、有名ファッションブランドにカメラマンとして就職。その後フリーになり活躍していたが、10年が経った頃、激務がたたり心の病に陥ってしまう。そんな時に訪れたスリランカで出会った、ゾウ。たくさんのゾウに触れ癒された理絵さんは、ゾウ使いとして生きるためタイへ渡ったのだった。理絵さんが動物と過ごすことを望んだのは、両親によるトラウマも一因だという。一人娘として溺愛されて育ち、自身も期待に応えようとしてきたが、大学受験では親が望む医学部に合格しながらも東京の美術大学へ進学。「何でお前は普通に育たないんだ」と言われ続け、娘をコントロールしようとする親とは喧嘩が絶えなかった。ゾウ使いになるときも、母の敦子さんは大反対。娘の行動に「わけがわからん」と思ったといい、理絵さんに対しては「世間に外れたことをしているから、親が達者な間に教えておいてやらなあかんと思って…」と、これまでの胸の内を明かす。
半年前、理絵さんは夫が生まれ育った村に新居を構えた。エレファントキャンプから車で5時間の場所にあるミャンマーとの国境沿いに建つ家は、夫の家族が作ってくれた昔ながらのカレン族の住居で、電気もガスも水道もない。そんな山深いこの地に引っ越したのは、近々ゾウを迎え入れて一緒に暮らすためだという。“ゾウとともに生きる”という夢が現実になろうとする今、楽しくて仕方がないと理絵さんは笑顔で語る。
タイに渡り夢を叶えようとしている娘の元へ、「普通の生活を送ってほしい」と願ってきた両親からの届け物が…それぞれの感情が平行線をたどる中、両親が娘に伝える想いとは。