今回の配達先はアメリカ。世界中から才能あふれるアーティストが集う現代アートの最前線・ニューヨークで金属彫刻家として奮闘する高氏奈津樹さん(35)へ、東京に住む父・秀樹さん(74)、母・真弓さん(70)の思いを届ける。
奈津樹さんが今、制作に取り組んでいるのは、カラフルなドームの中にブランコを取り付けた巨大な金属彫刻。「window2」と名付けられた作品は、ニューヨーク州ライ市の提案により完成後は大西洋を望む公園に公開展示されることになっている。奈津樹さんの作品は4年前にもマンハッタンのリバーサイドパークに設置されたことがあり、これまで数々のアーティストが挑戦してきた“アートに遊具を融合させる”という試みをニューヨークで実現させたのは、奈津樹さんが初めてだったそう。「window2」は半年前から構想を練り、1か月前から制作がスタート。思い描いたイメージを形にするべく、鉄やステンレスを大胆に切断していく。こういった作品の材料費やアシスタントの賃金など、費用はすべて先行投資。アートの世界は勇気がいると言い、「金銭的な負担もあるし、自分の時間や体力、エネルギーを掛けて集中していいものを作らないといけない。プレッシャーもあるうえに、誰かが買ってくれるという保証はない」と実情を明かす。
現在、唯一の収入源は、奈津樹さんの出身校でもある「アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨーク」での講師の仕事。世界的アーティストを数多く輩出してきた由緒あるアート学校で、生徒も各国から集まったトップレベルのアーティストばかり。そんな学校に入った10年前は、一流アーティストの中で素人は自分だけという状況だったというが、必死にアートに向き合い6年後には講師に大抜擢。さらに、学校に掲げられている現代アートを牽引してきた偉大なアーティストのリストに名を連ねるまでになった。
小さい頃は図工の時間が好きで、絵を描きたい気持ちをずっと持っていたものの絵画教室には行かせてもらえなかった。高校受験、大学受験でも美術系への進学を希望するも母に猛反対され断念。結局、母と同じ大学へ進学する。しかし、「このままでは一生母の言いなり。一度ぐらいやりたい事をやろう」と内緒で留学を決行し、25歳で一からアートを学び始めたのだった。
「window2」の完成まであとわずか。制作に打ち込む奈津樹さんを見た父の秀樹さんは「あんなに頑張れる子どもだったかなあ」と感心した様子。「絵では食べていけない」と反対した母の真弓さんも「大変なことをしていて、偉いなと思った」と、のんびり屋だと思っていた娘の姿に驚く。
ニューヨークに渡ってようやく才能を解き放ち、作品を生み出していく奈津樹さん。最先端の地でパブリックアートを手掛けるまでになった娘へ、芸術の道に進むことを反対し続けていた母から、届け物。母が初めて伝える想いとは…。