今回の配達先はアメリカ。ロサンゼルスから車で1時間、穏やかなビーチと整備された街並みが美しい都市・アーバインで3Dアニメーターとしてゲームのキャラクターに命を吹き込む小池洋平さん(33)へ、神奈川県に住む父・博さん(79)、母・昭子さん(75)の思いを届ける。
洋平さんが働くのは、アーバインに本社を置く世界最大規模のゲーム会社「ブリザード・エンターテインメント」。2016年に世界的なゲーム賞を総なめにした同社の大人気ゲーム「オーバーウォッチ」は6対6のチームで戦うシューティングゲームで、インターネットを通じて世界中の人と対戦することができる。プレイヤーは4000万人以上、欧米やアジアに12のプロチームが存在し、中には年間1億円以上稼ぐ選手も。近年オリンピック競技採用への機運が高まりつつある「e-Sports」として大会も行われ、全世界に配信される大会の様子は会場のみならず世界中を熱狂させている。そんな最先端のムーブメントの真っただ中で洋平さんが携わるのは、ゲームの中では描かれていないキャラクターが戦う理由や秘められた過去を紹介する「シネマティックアニメーション」と呼ばれる短編CGアニメ映画の制作。この映像によってプレイヤーは自身が操作するキャラクターに、より感情移入してゲームの世界に没頭できるのだという。キャラクターに動きをつける洋平さんは、3Dアニメの登場人物が自然な動作で感情を表現するよう、「瞬き」ひとつにも繊細な工夫を重ねる。そのため、たった3秒間の表情を作るのにも1週間を要するという。また、時にはリアルなだけではないアニメらしい誇張表現を用いることもあり、こうした一瞬への注力が映像に躍動感を生み出している。
大学時代、コンピューターグラフィックスに興味を持った洋平さんは、本場アメリカで学びたいとサンフランシスコの美術大学へ留学。たまたま授業で触れた2Dアニメーションの制作に夢中になり、卒業後は3Dアニメーションの世界へ飛び込んだ。アニメーターとして企業に売り込むため、デモ映像を作り現在の会社に作品を持ち込んだ洋平さんは、ひとまず契約社員として入社。4か月という限られた契約期間の中で実力を示そうと積極的に意見をぶつけた結果、アメリカ人以上に発言する前のめりな姿勢が評価され、採用が極めて少ない正社員の座を勝ち取ったのだった。
今の仕事に就いたのは、絵が上手だった母の影響が大きいという洋平さん。一方、厳しかった父とはコミュニケーションが上手く取れず距離を感じていたというが、あることがきっかけで洋平さんは自分の本心に気付く。父の博さんは「愛情はあったけど、表現の下手さはあったかもしれない」と自身を振り返る。そんな昔気質な父親と息子の関係をそばで見ていた母の昭子さんは、洋平さんからアメリカに渡ると聞いた時にチャンスだと思い、2人を海に連れ出し、親子で過ごす場を持ったという。こうして両親から新たな世界へ送り出された洋平さん。あれから年月が経ち、自らつかみ取った世界最高峰の環境に身を置きながらもさらなる上を目指して挑戦を続ける息子へ、両親の思いが届く。