今回の配達先はアメリカ。あらゆる人種が集まり、最先端の文化を発信する街・ニューヨークで、切り絵アーティストとして活躍する藤野真由子さん(38)に、千葉に住む父・和之さん(70)と母・正美さん(72)の思いを届ける。
真由子さんが生み出す作品は、少しユニークな「切り絵」。繊細な曲線で表現された独特の世界観を持つ切り絵に、雑誌や写真などから切り取った素材をコラージュしていく。様々な方法を試してこの手法にたどり着いたといい、小さいもので1週間、大きいものだと1カ月以上かけることもあるという。専門書の表紙デザインを手掛けるなど、そのオーダーは海を越えて多岐に渡っている。
4人家族の中で生まれ育った真由子さんは、高校卒業後アートの世界に進みたいと模索するも認められることはなかったという。当時は対人恐怖症もあり、生きていくことにすらつまずいたように感じながら20代を過ごしていたが、29歳のときに転機が訪れる。ニューヨークで開かれる展覧会に作品を応募したことを機に、現地を訪問。そしてこの街に強く心を惹かれた真由子さんは、活動の拠点を移すことを決断し、英語も満足に話せないまま30歳でニューヨークへと渡る。そのわずか3カ月後、小さなギャラリーのグループ展に出展すると瞬く間に作品が売れ、アーティストとして生きていく自信を手にしたのだった。現在はアーティスト仲間でありパートナーのディビットさんと一緒に暮らし、アートの力で社会問題を解決しようというNPO職員としても働く日々。自分自身のデザインによって自分を救ってくれたニューヨークの街が少しずつ良くなっていくことが、今の真由子さんの喜びにもなっている。
こうして自分を理解してくれる人々と巡り合い充実した毎日をおくる一方で、真由子さんは日本の家族との間にわだかまりを抱えていた。渡米して8年、日本には一度も帰っておらず、母にはメールや電話をするものの、父とは38歳の現在までほとんどコミュニケーションすらとったことがなかった。仕事に没頭し海外出張も多く留守がちだった父の和之さんは、真由子さんにとって「父性的な役割も母性的な役割も果たさなかった、親になれなかった人」だった。和之さんは真由子さんの言葉を聞いて「あの子らしい、厳しい意見」と受け止めるが…。
これまでの人生で向き合うことのなかった父と娘。しかし昨年、和之さんが心臓病で倒れたことをきっかけに、真由子さんの心境に少しずつ変化が起きていた。そんな真由子さんの元に、日本の家族から届け物が―――自分のルーツを大切に、より一層頑張ってほしいという気持ちが込められた思い出の品に添えられて、父が初めて綴った手紙があった。今、父が思う娘への思いが明かされる。