フィリピン第2の都市、セブで音楽の指導者として奮闘する永田正彰さん(33)へ、大阪府に住む母・順子さん(66)の思いを届ける。
人口の急増により、スラム街の拡大が深刻な社会問題となっているフィリピン。4年半前に現地へと渡った正彰さんは、セブ市内に住む貧困層の子どもたちに無償でバイオリンやトランペット、フルートなどさまざまな楽器を教えている。生徒は7歳から18歳までおよそ100人。貧しくて学校にすら通えず、この教室に来るまでは楽器にふれたこともなかった生徒たちだが、いまやオーケストラとして人前で演奏をするまでに上達。音楽を始めるまでは1日中外でぶらぶらしていたという子も「大勢の前で演奏するのが一番楽しい!」と目を輝かせる。間もなく、生徒が全員参加する過去最大規模のコンサートの開催が迫り、正彰さんの指導にもおのずと熱が入る。
正彰さんは、中学生の頃からブラスバンド部に所属し、青春のすべてを音楽に費やした。その後、トロンボーン奏者として活動していたが、セブ島へ。その決断には、自らの家庭環境に理由があった。正彰さんの両親は、不仲が原因で別居。一緒に暮らす母には言いたいことが言えず、唯一音楽だけが自分を表現できる居場所だと思うように―――あの頃の自分と同じように、寂しい思いをしている子どもたちに居場所をつくってあげたい。「辛いとか悲しいとかの感情を笑顔で隠してしまわないようにしてほしい」と、音楽を通じて子供たちと時間を共にしている。最近では、新たな試みとして出張の音楽教室を始めた。セブで最も環境が悪いスラム街に赴き、学校にも通えない子供たちのため少しでも楽しめる場所を作りたいと考えてのことだった。子どもらの奏でる音に涙する人も。音楽を通じて色んな感情を表現してもらいたいと、正彰さんは現地の人と接していた。
迎えたコンサート当日。スラム街で育った子どもたちのほとんどは、会場であるショッピングモールに来るのも初めてで、大舞台に緊張気味。しかし、そんな心配をよそに我が子の晴れ舞台に家族たちも大勢駆けつけた。音楽で、生きる喜びを感じてほしい。厳しい環境に置かれた子供たちの可能性を広げてあげたい。少しずつ、その思いが形になりつつあると感じる今では、逆にフィリピンの人々から幸せをもらっているという正彰さん。家族を大事にする現地の人々と触れ合ううち、「日本にいる家族のことを考えるようになった」と、自分の気持ちに変化が生まれてきたという。
そんな正彰さんの元に、「もう少し母親らしいことをしてあげられればよかった」と悔やみながらも、ずっと見守ってきた母から、届け物が…母が初めて息子へ綴った手紙を読んだ正彰さんの、その心に迫るものとは。