今回の配達先は、職人文化が根付く国・ドイツ。南部に位置する歴史ある街ミュンヘンで、パンのマイスターを目指して奮闘する和志田康人さん(36)へ、愛知県に住む妻のもえ子さん(38)、娘の理子ちゃん(7)ら家族の思いを届ける。
現在、パン職人としての高度な技術を認定する国家資格「マイスター」を取得するための学校に通っている康人さん。学生の多くは20代で、36歳の康人さんは同級生の中で2番目の年長者。国内でもトップレベルの合格率を誇るこの学校に入学するためには、3年以上の修業が必要な職人資格「ゲゼレ」の所持が条件で、5年前にドイツに渡った康人さんは、これまで現地のパン屋で腕を磨いてきた。マイスター試験はいよいよ3週間後。今は本番を想定した実習の真っ最中で、指定された材料とテーマでレシピを考案するという難しい課題に、培ってきた技術と情熱を注ぎ込む。実習後は、一人教室に残って筆記試験の勉強。ドイツ語というハンデに「他の生徒よりも2倍、3倍頑張らないと」と努力を惜しまないのは、何としてでも1回で試験に合格し、一刻も早く日本に帰るためだ。
元々はラグビー選手だった康人さん。高校、大学時代と華々しく活躍した後、社会人チームに進むが、次第に周囲のレベルの高さに限界を感じ28歳という若さで引退する。人生の目標を失った苦悩。ラグビー一筋で生きてきた康人さんにとって、打ち込める何かが必要だった。そんな時、偶然出合ったのが“パン職人”への道。さらにパンのマイスター制度を知ってドイツへの留学を考えるが、すでに結婚し幼い子どももある身で修業に出ることに、両親や友人から大反対されてしまう。しかし、踏み出せずにいた康人さんの背中を押したのは、他でもない妻のもえ子さんだった。
当時について、もえ子さん自身も「ラグビーと全く方向が違ったので驚いた」と話す。それでも、康人さんの固い決意を前に「20代の最後だったから、方向転換するなら今しかない」と、ドイツ行きにも反対しなかったという。だからこそ、資格を取ったらすぐに戻るという約束で送り出したもえ子さん。理子ちゃんも「1秒でも早く帰ってきてほしい」と父の帰りを心待ちにしている。
家族と同様、「早く帰国して、日本でパン屋として生計を立てて家族を養っていきたい」という思いを持ち続けながら、ついに夢の第一歩となるマイスター資格取得に挑む康人さんに手渡されたのは、7歳になった愛娘からの届け物。子どもの成長と月日の流れを感じた康人さんの目に涙があふれる。そして、添えられた手紙に綴られていたのは、長い間帰りを待つ妻の率直な気持ち。そんな思いを背負って決意を新たに臨んだ試験本番、果たしてその結果は…。