「世界で最も美しい街」と称賛されるチェコのプラハ。歴史的な劇場や博物館が数多く残り、芸術の都としても知られるこの地でバレエダンサーとして奮闘する藤井彩嘉さん(24)へ、大阪に住む父・秀彦さん(61)と母・ゆきこさん(51)の思いを届ける。
バレリーナに憧れていた母の勧めで、3歳からバレエを始めた彩嘉さん。母の喜ぶ顔が嬉しくて踊っていた少女時代を経て、いつしか海外に行きたいという夢を持つように。猛練習の日々の末、16歳のとき奨学金でアメリカのバレエ学校に留学を果たす。さらに、若手の登竜門といわれる世界最高峰の国際コンクール「ローザンヌ国際バレエコンクール」では決勝に進出。そして念願だった海外のバレエ団へ入団する。これまでプロとしてハンガリーやドイツなど、ヨーロッパ各地で活躍してきた。ところが昨年4月、新天地を求めてチェコ・国立バレエ団へ移籍が決まった矢先の練習中に、バランスを崩してバレリーナの命ともいえる左足首を骨折してしまう…。2度にわたる手術を行ったものの、完治しないまま今も足にはボルトが入り、痛みが残った状態だ。
当時を振り返って、母のゆきこさんは「左足はバレエダンサーにとって一番の軸になる要の足。その足を骨折してもうバレエはできないと思った」といい、日本に連れ戻そうと考えたこともあったと打ち明ける。一方、父・秀彦さんも「きっとつらい思いをしたと思う。今はリハビリが進んで踊れるようになっているとは聞いているが…」と、彩嘉さんの様子を気に掛ける。
現在、バレエ団には世界各国から集められたダンサーが約80名在籍し、彩嘉さんは4つある階級のうち最下位ランクの「コールドバレエ」に所属。主に集団の中の一人として踊っているが、そんな中、次回公演の「ラ・バヤデール」で、彩嘉さんがソロパートのある準主役級の役に抜擢される。インドの舞姫と戦士の叶わぬ恋を描いた古典バレエの名作で、死んだ主人公の幻影となって踊る重要なシーンを持つ役。配役を決めた芸術監督のフィリップさんは、ドイツのバレエ団にいた頃から彩嘉さんのことをよく知る人物で、「彼女は万能なダンサーで、特に古典作品が得意。だから今回の作品はカムバックにふさわしいし、団員や観客を満足させられるまで戻ってきた」と確信を持つ。とはいえ、骨折してから入ったこのバレエ団では一度もソロで踊ったことはなく、手術後初めてとなる大役。左足で着地をするジャンプや左足を軸とした回転が続く演技を、舞台で踊り切ることはできるのか…。
プラハに来て8ヶ月。これまでもうバレエを辞めてもいいと思ったこともあったというが「ケガをしたことによって『まだ辞めたくない』『もっと踊りたい』と思う自分がいた」と、改めてバレエに対する気持ちを再認識した彩嘉さん。迎えた公演当日、痛み止めを飲み、仲間の応援を受けていよいよ復活をかけた舞台に立つ。そんな彩嘉さんに手渡された両親からの届け物。ダンサー生命にかかわる大ケガを乗り越え、新たなスタートを切ろうとしている娘を、心配しながらも応援する両親が届け物に込めた思いとは。