今回の配達先は、南米・ペルー共和国。日系移民とのかかわりも深い首都・リマで、新米の物理教師として奮闘する辻埜太一さん(30)と、大阪に住む母・佳世子さん(58)、姉・純子さん(33)をつなぐ。広島の高等専門学校への進学を機に15歳で実家を離れて以来、家族とともに暮らすことは一度もなかった太一さんは、青年海外協力隊への参加をきっかけにリマの学校で教師として働き始め、さらに現地で知り合った女性と結婚、そのままペルーで暮らすことになったという。「本当は結婚式にも出席したかったのだけど…」と佳世子さんは語る。一方、純子さんは、太一さんが家を出た原因は父・浩さん(63)との関係にあるのではないかと、長年の気がかりを明かす。
太一さんの職場はペルーの日系人社会が創設した学校「コレヒオ・ラ・ウニオン」で、生徒数は小・中学部合わせて1200人。太一さんは中学生の物理を担当しているが、実は赴任してまだ3日目で、教室の場所すらおぼつかないほど。しかも、懸命に授業を進めようとするも、生徒たちは物理には関心がないのか話も聞いていない様子。そこで太一さんは一計を案じ、透明の大きな容器に水を入れて教室に持ち込み、水をいっぱいに入れたコップに紙でフタをし、さかさまにしても水がこぼれないという実演を披露する。すると生徒たちの態度は一変、目を輝かせて授業に参加するように。太一さんは試行錯誤しながら、青年海外協力隊に参加していた時に行っていたサイエンスショーで生徒たちの心を掴むことに成功する。
4人家族の末っ子として生まれた太一さん。内気な性格だったが、広島県の高等専門学校へ進学し、大阪の実家を離れて寮生活をおくることになる。その後、石川県の大学院へと進み、卒業後の進路を模索する中、新たな目標を求めて青年海外協力隊に参加。やってきたペルーで理系の知識を活かしボランティアでサイエンスショーを行っていたところを、「コレヒオ・ラ・ウニオン」校長にスカウトされたという。太一さんは教師の経験はなかったものの、ペルーの子供たちの素直さに惹かれて教育の道へ進む決心をしたのだ。
婚約者のジュリアーナさん(28)とは、太一さんのサイエンスショー会場で出会った。彼女の実家でウエディングパーティーを開く予定で、新しい仕事とともにパーティーの準備にも追われる毎日だ。
15歳で実家を離れて以来、15年もの間家族と共に生活することがなかった太一さん。実家に寄り付かず、離れて暮らしてきた理由とは…。そこには父に対する、ある複雑な感情があった。幼いころ、毎日深夜に帰宅する父はいつも怒っているように見え、次第に「お父さんが家にいることで、家族の雰囲気が黒い霧に包まれているような」感じがずっとあったと告白する太一さん。その苦しい気持ちが太一さんの中でふくらんだ結果、2人は顔を合わせても会話はなく、会話をすれば衝突、ますます距離を置くようになっていったという。
迎えた結婚式の日。彼女の両親や親戚などが集まり和やかな雰囲気の中、結婚証明の書類にサインをして正式な夫婦となった太一さんとジュリアーナさん。皆に祝福され、ペルーで手にした新しい家族とともに人生の新たな一歩を踏み出した太一さんの元へ、日本の家族から、共に暮らしていた頃の思い出の品が届けられる。添えられていたDVDには15年間、心を通わせることがなかった父の姿が。長い時を経て初めて知った父の本心に、太一さんの胸に宿った想いとは…。