今回の配達先はオランダの首都・アムステルダム。古くから音楽が盛んで、多くの優れた打楽器奏者を輩出してきたこの街で、新進気鋭の打楽器奏者として奮闘する今井僚子さん(34)と、神奈川県に住む父・崇博さん(64)、母・喜代美さん(63)をつなぐ。10年前にオランダの音楽院に留学した僚子さん。父は「海外で本当にやっていけるのか心配だった」といい、母は「卒業後は日本で活動してくれると思っていたのに…」と、遠く離れてしまったことを残念がっている。
僚子さんは、クラシックや現代音楽、ラテン音楽など、あらゆるジャンルを演奏できるフリーの打楽器奏者。楽器だけでなく、動物の骨や植物、陶器、鍋など、音が鳴るものなら何でも叩くという異色の演奏者だ。ミュージシャンとして、ひとつのジャンルに留まらない存在は本場オランダでも珍しく、さまざまな音楽集団からオファーが絶えないという。
母親がピアノの先生だったため、小さいころから音楽の英才教育を受けてきた僚子さん。「そのおかげで音楽が体に染みついている。音楽の基礎を作ってもらったことは今、すごく感謝している」と話す。高価な楽器や楽器ケースなどを自由に買えなかった学生時代には、日曜大工が得意な父に頼んでよく作ってもらっていたという。「父は面倒くさいと言わず、いつもちゃんとしたものを作ってくれた。私を応援してくれる父の愛だったと思う」と振り返る。
中学の時から吹奏楽部で打楽器一筋。東京音楽大学では打楽器科を専攻し、大学院へ進学。しかし、周囲がコンクールで入賞し、著名な楽団へと進む中、僚子さんはなかなか芽が出ず、行く先を見失ってしまったという。悩み続ける彼女を一番心配してくれたのは両親だった。そんな中、「打楽器の本場、オランダに行けば、活路が見いだせるのではないか?」と考えた僚子さんは2008年、アムステルダム音楽院に留学。その時、口には出さなかったが、オランダで仕事が出来れば、日本に帰らなくてもいいとさえ思っていたという。両親は、いずれ日本に戻るだろうと考えていたが、結局、僚子さんは卒業後もオランダに留まり、ようやく自分だけの演奏スタイルにたどり着いたのだ。
今はリハーサルとコンサートに明け暮れ、充実した日々を送る僚子さん。この夏には、リスボンに住むポルトガル人トランペット奏者のモイゼシュさん(35)と結婚する予定だ。人生の大きな節目を迎え、日本の両親に思いをはせる時間も増えたという僚子さん。
オランダに渡り10年。この国で日本では体験したことのない音と出会い、その音色をもっと広めていきたいという夢も芽生え始めた。そんな彼女に、日本の両親から届けられたのは、大学院時代に父が彼女のために手作りしてくれたある思い出の品。添えられていた父の手紙には、オランダで奮闘する彼女を励ます温かい言葉が綴られていた。今も変わらず応援し続けてくれる両親に、僚子さんが語った日本への想いとは…。