今回の配達先はアメリカ・ニューヨーク。料理人の島野雄さん(35)と、兵庫県三田市に住む母・めぐみさん(61)をつなぐ。去年までパリの三ツ星レストランのシェフとして活躍していた雄さん。母は「フランスに渡るとき、もう家にはいない子なんだと思って送り出した。どんなことがあっても覚悟はしているつもりだけど…やっぱりさびしい」とつぶやく。
雄さんが働くのは、飲食ビジネスの激戦地・マンハッタンに3か月前オープンした日本食レストラン「ミフネ」。店側からのたっての希望で料理長として迎えられ、店の立ち上げからメニュー開発まで携わってきた。厨房のスタッフは10名。日本人は雄さんを含め2人だけで、あとはアフリカやメキシコなど世界各国からやってきた外国人ばかりだ。
フレンチの腕は本場でも高く評価されていたが、日本食レストランで働くのは初めての経験。「ニューヨークで戦うには100%日本食でも、100%フレンチでも難しい。答えが無い中で試行しているところです」と雄さん。まさに今、和食とフレンチの融合という新たな課題にチャレンジしているところだ。
オープンから3か月、雄さんが生み出す料理は舌の肥えたニューヨークのお客さんにも徐々に認められてきた。その一方で、この3か月ですでに3人のスタッフが辞めてしまった。若いスタッフを一人前に育てるのも料理長の大事な仕事だが、なかなかうまくいかず苦労している。また、スタッフ同士のコミュニケーションがうまく取れず、情報の共有ができていなかったり、かき入れ時の金曜夜に突然、団体客のキャンセルが入ったりと、毎日のように予期せぬトラブルが起こり、頭を悩ませている。料理長という立場を任された今、店の売り上げにも大きな責任があると感じている雄さん。いまだ不安定な客入りをなんとか打破しようと、インパクトのある新メニューの開発を急いでいるところだ。
子どもの頃は偏食で野菜嫌い。給食が食べられないため学校を休んだこともあるほどだ。「母が工夫して手間暇かけ、野菜をなんとかおいしくして食べさせてくれた。その味が今の自分のベースになっている」と、雄さんはいう。そんな母の後姿を見て育った雄さんは、高校卒業後、調理の専門学校へ。さらに、フランスへと渡り、およそ10年の修業の末、ミシュラン三ツ星の名店でシェフを任されるようになったのだ。
店を軌道に乗せるため、料理長として悪戦苦闘の日々をおくる雄さん。「いずれニューヨークで自分の店を出したい。大きな土地を買って、同年代の農家の人とか、ワインを作る人とかと一緒にゼロからモノを作り、世界中からお客さんが来てくれるようなクリエイターチームを作れたら」と壮大な夢を語る。
そんな夢に向かって全力で走り続ける雄さんに日本の母から届けられたのは、手作りのかぼちゃスープ。子どもの頃、野菜嫌いだった雄さんの大好物となり、料理に興味を抱くきっかけとなったおふくろの味だ。ひさしぶりに食べた雄さんは「本当にうまい!」と唸り、「ひと手間でこれほど好きにさせるってスゴイ!」と感服し、母に感謝するのだった。