今回の配達先は、世界三大コーヒーのひとつであるコナコーヒーの聖地・ハワイ島コナ。この地で農園を営むコーヒーファーマーの村松祥代さん(37)と、奈良県に住む母・美津子さん(68)をつなぐ。短大卒業後、キャビンアテンダントとして働き、結婚を機にハワイに移住した祥代さん。4年前から夫の由希夫さん(43)と共にコーヒー農園を営んでいる。母は「まったく畑違いの仕事で心配だったし、反対もした。でも娘の情熱に負けた」といい、今は娘を応援している。
祥代さん夫婦のコーヒー農園は、規模としてはかなり小さいというが、それでも広さはおよそ甲子園球場ひとつ分。今は1年で一番忙しい収穫時期。祥代さんは3歳の長男と7カ月の次男の世話や家事をこなしながら、夫と共に毎日早朝から深夜まで休む間もなく農園の仕事に追われている。
農園作業が多忙を極めるのは、無農薬・有機農法を実践しているため手間がかかるから。さらに、コーヒーの実はひとつひとつ手摘みで収穫し、加工から焙煎まで、あえて昔ながらの方法にこだわり、大切に手塩にかけてコーヒー豆にしていく。出来上がった豆の選別は祥代さんが手作業で厳選して行い、お客の元に渡るのは収穫した半分以下だという。すべては“納得できない物は一粒でも外には出したくない”という2人の確たる思いがあるからだ。
日本でのキャビンアテンダント時代は華かで楽しい日々だったが、本当に心が満たされていたのかは疑問だったという。そんなとき、旅行で訪れたハワイ島で出会ったのが由希夫さんだった。理想のコーヒー作りを目指して、ハワイでコーヒー農園を作る夢を抱いていた由希夫さんに惹かれ、2年の交際を経て結婚。2人でその夢を追う人生を選んだのだ。
だが、華やかな生活から一転、毎日早朝から深夜まで休む間もなく繰り返される農園の仕事、家事、子育て…。「化学肥料や農薬を使えばもっと楽になる。でも夫はそうやって成功したいわけじゃない。ただ本当においしいコーヒーを作りたくてここに来ている。そんな彼だからこそ、一緒にコーヒー農園をやろうと思ったんです」。
毎日無我夢中で働き続け、自分のことはいつも後回し。化粧をする間もないほどだ。泣き止んでくれない次男を背中であやしながら家事に追われる祥代さんは、「本当は美容院にも行きたいし毎日お化粧もしたいけど、今の生活ではとても無理。みんなから『それで楽しいの?』と言われるけど、自分で選んだ道だから後悔はしていない」ときっぱり。しかし、そうは言いながらも、その目からは思わず涙がポロリとこぼれる。
そんな祥代さんに日本の母から届けられたのは、たくさんの化粧品とリフレッシュグッズ。添えられていた手紙には、「くれぐれも無理はしないでください。少しはお手入れしてね。いつまでも美しいママで」と綴られていた。祥代さんは「綺麗にしなさいということでしょうか?」と言って苦笑い。「いつも、ついつい自分のことは後回しになってしまう。母の言うとおり、1日わずかでもそういう時間を持ちたいと思う」と言って笑顔を見せるのだった。