今回の配達先はイギリス・ロンドン。クラシックギタリストとして奮闘する武本英之さん(40)と、京都に住む父・慶三さん(74)、母・摂子さん(68)をつなぐ。19年前に、イギリスの音楽院に留学した英之さん。その時、両親は大反対したそうで、父は「趣味としてはいいかもしれないが、ギターで生活するのは絶対に無理だろうと思っていた」と話す。かつては、有名になって大勢の人の前で演奏することを夢見ていた英之さんだったが、現実にはプロの演奏家としての仕事はなかなかなく、今は月に数回、カフェや飲食店でBGMを演奏したり、小さなライブで活動する日々を送っている。
バンドに憧れてギターを始めたのは15歳の時。将来は演奏家になろうと、反対する両親に頼みこんで音楽大学へ進学し、21歳の時にはイギリスの名門音楽院に留学した。「あとで知ったが、両親はお金を借りて多額の学費を出してくれていた」と英之さんはいう。
「有名になって大きなホールで演奏したい」。そんな大きな夢を持って始まったロンドンでのギタリスト人生だったが、実際は仕事がまったくなく、電車に乗るお金すらない厳しい生活を送ることに。それでも、ギターで生きていくという夢を諦められずにいた英之さんに、大きな出会いが。のちに妻となる麻衣子さん(42)だ。イギリス育ちの彼女は小学校の先生。結婚して12年になるが、夫婦と長男(8)、長女(5)の生活を経済的にずっと支えてきたのは麻衣子さんだ。結婚当時は、プロといっても練習以外することはなく収入はゼロ。そんな英之さんを支えようと決意した理由を、麻衣子さんは「彼はいつも笑顔で前向き。そんな彼を応援したいと思ったから」と明かす。
最近はカルチャースクールのギター講師としても教えるようになった英之さん。少しでも家計の足しになればと、自ら売り込んで得た仕事だ。今では4つの教室で50人以上の生徒を抱え、ようやく妻の収入に追いついてきたという。「イギリスに来た当時は、有名になってCDを出して、大きなホールでコンサートをして…と夢を見ていた。でも今は、小さな場所でも僕のギターを聴いた人が癒されたり、気持ちよくなってくれることがうれしい。これからも少しずつだけど登り続けたい。そして、成功して妻にもっと恩返しができれば」と英之さんはいう。
大好きなギターで生きていくことにこだわるその原点は、亡き祖父の生き方にあるという。画家として、着物や帯のデザインも手がけ、家族を養っていた祖父。自分の好きな事で生きてきた祖父に、英之さんは幼いころから強い憧れを抱いていたのだ。
そんな英之さんに日本の両親から届けられたのは、大好きだった祖父のスケッチブック。添えられていた手紙には「おじいさんの最後のスケッチブックです。きっとお浄土からエールを送っていますよ」と綴られていた。祖父の描いた懐かしい絵の数々を眺めながら、英之さんは「自分もギターでおじいちゃんのように頑張りたい」と涙し、両親には「絶対恩返しをするので、もう少し待っていてほしい」と、約束するのだった。