今回の配達先はシンガポール。調味料メーカーを経営する服部由博さん(50)と、京都に住む父・康治さん(81)、母・由喜恵さん(78)をつなぐ。5年前、勤めていた会社がこの国に製造拠点を作った際、その立ち上げを任されたが、2年後、会社がシンガポールからの撤退を決定。それを機に独立した由博さん。両親は「会社の資産を買い取って自分でやると言われた時は驚いた。年齢も年齢なので結婚もしてほしい」と、独りで奮闘する息子を案じている。
今、和食が大きなブームとなっているシンガポール。由博さんの会社「シノビソース」は、焼き鳥のタレやすき焼きの割り下、ラーメンだれなど、和食店の料理の味を決める液体調味料を開発・製造している。店舗拡大を計画する人気店などから依頼を受け、繊細な舌を武器にその店の味を忠実に再現し、大量生産を請け負っているのだ。各店の命ともいえる味を常に安定して供給できる「シノビソース」の、現地での信頼は厚い。経営者になって2年余り。社員である日本人スタッフ1人、現地スタッフ4人と共に奮闘中だ。
日本では大学院で食品工学や食中毒について学び、その知識を活かすため、「タレ」を作る調味料メーカーに就職。5年前、シンガポールで東南アジア製造拠点の立ち上げを任された。だが、奮闘むなしく、たった2年で勤めていた会社がシンガポールからの撤退を決定。由博さんは「会社が変ろうが、お客さんは品物を必要としており、止まってはいられない状況だった。とにかく前に進むしかなかった」と、当時を振り返る。何より、この事業に可能性を感じていた由博さんは、大きな決断をする。お金をかき集めて会社の株式をすべて自分で引き取り、社員と取引先の人生を背負って社長となったのだ。
50歳で現在独身。会社には朝一番に来て、最後まで残って仕事をしている由博さん。家に帰ったら寝るだけの生活だ。しかし、そんな由博さんが唯一心安らぐ時間がある。ハノイに住む遠距離恋愛中のベトナム人女性・チャンさん(36)とテレビ電話で話をするときだ。2人は彼女がシンガポールで働いている時に出会い、交際は4年になる。由博さんは将来、チャンさんとの結婚も考えているという。そして、日本に残して来た高齢の両親については、「ここまですべて自分の決断でやらせてもらったことに感謝している。会社を成功させて、両親を喜ばせたい」と話す。
覚悟をもって踏み出した独立の道。最近は会社の新たな活路を開くため、オリジナルレシピを開発して積極的に売り込みをかけているという由博さん。「シンガポールは他国に向けての礎にしたい」と言い、将来は海外進出も視野に入れている。
そんな由博さんに、日本の両親から届けられたのは、服部家に家宝として伝わる掛け軸。描かれているのは、反物屋を築き、服部家の一番の成功者となった先祖の姿。商売繁盛のお守りとして代々受け継がれてきたものだ。由博さんは「これを送ってくれたということは、会社をもっと発展させて、ご先祖様よりもさらに成功してくれという願いなのかも。本当は父がやりたかったのかもしれませんが、そのバトンを受け取ったような気がします」と、しみじみ語るのだった。