今回の配達先は台湾の台中市。スクーターパフォーマーの安倍優さん(33)と、神奈川県に住む母・初子さん(64)をつなぐ。5年前、勤めていた会社を辞めて台湾に渡り、アクロバティックなスクーターパフォーマンスで大企業と専属のアスリート契約を結ぶことを夢見ている優さん。母は「趣味でやっているものとばかり思っていたのに…。台湾へも黙って行ってしまった」と言い、ケガを一番心配している。
優さんのパフォーマンスは、スクーターをウィリー走行させながらアクセルとブレーキを駆使し、巧みなボディバランスでさまざまな技を披露する「フリースタイル」というジャンル。次々と新しい技を考えては、多い日で1日8時間、食事もとらずに練習を重ねる日々だ。
日本では人の目もあり、危険走行を連想させるウィリーに全力で取り組めなかったという。一方、台湾の人たちにとってバイクは生活必需品。バイクに対するイメージが日本とまったく違い、空き地で練習する優さんに嫌な顔をする人はなく、「僕にとっては天国」という。
16歳になった誕生日に原付免許を取って以来、バイクで技を決めることにハマった優さん。就職してサラリーマンをしながらも、趣味でバイクパフォーマンスを行っていた。しかし10年前、エナジードリンク・ブランドの「レッドブル」が主催する巨大イベント「フリースタイルモトクロス」というバイクパフォーマンスの映像を見て衝撃を受けることに。「レッドブル」はさまざまなジャンルの頂点を極めた世界最高峰のアスリートと契約を結び、その活動をバックアップしているのだ。優さんは、スクーターという新しいジャンルで、そんな“レッドブルアスリート”を目指すことを決意。しかし、レッドブルにとってもスクーターは未知のジャンル。優さんはレッドブルにアピールしたい一心で日本を飛び出し、バイク普及率世界一の台湾へ渡ったのだ。
台湾に来たばかりの頃は無償で現地のショーに出演し続け、3年がかりで台湾最大のモーターサイクルショーに出場。雑誌の表紙を飾るまでになった。そして、自らの技術が世界一だということを証明しようと、今年5月、ウィリー連続走行の世界記録に挑戦。それを知ったレッドブルが、なんとサポートを名乗り出てくれたという。燃料補給もトイレもウィリーをしたままという13時間に及ぶ激走の末、優さんはそれまでの世界記録331kmを大幅に上回る500kmという前人未到の記録を樹立したのだ。
しかし、憧れのレッドブルとの共演はあくまでも一時的なプロジェクトで、契約を結んだわけではない。台湾に来て5年。練習時間を少しでも多く確保するため、定職に付いていない優さんは、ギリギリの生活を続けながら、今もレッドブルアスリートになる夢を追いかけている。
「バイクが好きすぎて、家族にはずいぶん迷惑をかけたから…」と、この5年間、日本の母に連絡をすることはなかったという。そんな優さんに、日本の母から届けられたのは、生まれ育った横須賀のお菓子と、母の故郷、長崎・佐世保のオレンジジュース。優さんが喜びそうなものを集めたという。添えられた手紙には「優君が信念を持ってやっていることなので、信じて見守っています」と綴られていた。優さんは「応援してもらえてうれしい。続けてきてよかった」と、安心したように笑顔を見せるのだった。