今回の配達先は、イタリア・チロル地方の小さな町・ブルニコ。共に世界で活躍するヴァイオリニストである日本人の母とイタリア人の父を持ち、自身もヴァイオリンに打ち込むセリーノ市原ゆきさん(11)と、京都に住む祖父・達朗さん(73)、祖母・敬子さん(72)をつなぐ。ゆきさんとはもう2年半会っていないという祖父母は「孫に会いたい。今度、演奏会でソリストを務めると聞いている。成功してほしい」と話す。
ゆきさんは現在、ブルニコのアパートで母・洋子さん(46)と2人で暮らし。内気で恥ずかしがり屋のゆきさんは、洋子さん曰く「おとなしくて、日本人的な性格」という。元々家族3人、ローマで暮らしていたが、ゆきさんは都会での生活に馴染めず、いつしか学校も休みがちに。心配した洋子さんは、「娘の性格にはゆったりしたチロル地方の方が合っている」と半年前、2人でのどかな田舎町ブルニコで暮らすことを決意したのだ。
母・洋子さんは6歳からヴァイオリンを始め、留学先のローマの名門音楽学校を首席で卒業。その後もローマに残り、世界的に有名なイ・ムジチ合奏団のヴァイオリニストである夫・マルコさん(48)らとカルテットを結成。世界各国で音楽活動を行ってきた。しかし、ここ最近はゆきさんのためにと、自身の音楽活動を控えているという。
ゆきさんが自らヴァイオリンを手にしたは3歳の時。以来、音楽学校には通わず、両親の元で才能を伸ばしてきた。8歳と9歳の時には、ローマの音楽院が開催するコンクールで2年連続優勝。少女とは思えないテクニックと、のびやかで感受性豊かな演奏に、審査員たちも驚きを隠せなかったという。ローマ市内の町長がゆきさんの演奏に感動し、特別表彰されるなど、天才ヴァイオリン少女として大きな注目を集めることに。
ブルニコに来て半年。友達もたくさんでき、ゆきさんに笑顔が増え、彼女のヴァイオリンも大きく変わった。よりのびやかに強く、その才能が解き放たれたようだという。そんな彼女が、人生初めての大舞台に立つことに。ゆきさんがコンクールで優勝した時の音楽院が開く演奏会に、ソリストとして招待されたのだ。11歳としては異例の抜擢だという。
セルビア共和国のベオグラードで行われるその演奏会は、ローマとベオグラードの音楽院の交流演奏会で、ゆきさんと共に、洋子さんとマルコさんも特別招待され、期せずして家族3人が同じステージに立つことになった。その晴れ舞台を誰よりも楽しみにしているのは日本の祖父母。ソリストの大役を担うゆきさんは「おじいちゃんとおばあちゃんのためにも頑張る!」と意気込む。そんな彼女に日本から届けられたのはカチューシャ。本当は孫娘の晴れ舞台をそばで見守りたい祖母が、演奏会の成功を祈って手作りのリボンを付けて届けたのだ。
演奏会当日。天才少女ゆきさん目当てのお客さんで、会場は立ち見も出るほど。祖母にもらったカチューシャを身に付けたゆきさんは、見事な演奏を披露し、満員の聴衆を魅了。会場には万雷の拍手が鳴り響くのだった。