今回の配達先はイギリス・ロンドン。「椅子張り職人」として生きるルイス智子さん(51)と、東京に住む母・智英子さん(75)、妹・洋子さん(49)をつなぐ。25年前、仕事で日本に来ていた外国人男性と恋に落ち、日本に住むことを条件に結婚した智子さん。しかし7年後、夫の転勤でロンドンへ移住することに。大反対したという妹は「英語もしゃべれないのに、外国で暮らすなんて絶対無理だと思った。悲しい思いをするんじゃないかととても心配だった」と振り返る。
ヴィクトリア女王の時代に建てられた古い家が今も多く残るロンドン。建物と共に時を刻んできた古い調度品も多く、製造から100年以上経ったものは「アンティーク」と呼ばれている。そんな古い椅子の骨組み以外の部分をすべて取り換えるのが“椅子張り職人”。いわば椅子の修理屋さんだ。古いものを大切にするイギリスでは比較的メジャーな職業だという。
智子さんはオーダーを受けると、椅子を預かり、自宅で作業を行う。まず座面の古い布をはがすと、あらわになる木製の枠。幾度の修理を経て穴だらけだが、100年以上前の木材はもう手に入らないので、穴を丁寧に補修し、そのまま大切に再利用する。そんな智子さんをサポートするのが夫のジェフさん(60)。普段はコンピューターエンジニアをしているが、智子さんを少しでも手助けしたいと、木工職人の学校へ通い、技術を習得。骨組みの修理を担当している。
続いて、座面の木枠に土台となる布ひもを張り、麻布をかぶせる。その上に馬の毛を綴じ付け、また麻布をかぶせて縫い付け、さらに馬の毛を乗せて座面を成型していく。同じ作業を何層分も繰り返し、クッション性を高めていくのはとても根気のいる仕事だ。
25年前、外資系の会社に勤めていた智子さんは仕事で日本に来ていたジェフさんと出会い、日本に住むことを条件に結婚を決意した。「私は海外に興味があったわけでも英語ができるわけでもなかったので、ずっと日本に住んでいたかった」と智子さんは振り返る。しかし7年後、ジェフさんの仕事の都合でロンドンに移住することに。長男は当時まだ2歳。智子さんにとっては青天の霹靂だった。とても仲の良かった妹は移住に大反対。智子さんは「当時お互いの子どもが小さかったから毎日のように会って話していた。妹と会えなくなるのがとにかく悲しかった」と話す。
異国の地で始まった生活は不安と孤独でいっぱいだったという智子さん。そんな時、偶然アンティークの椅子張りを目にし、心を奪われた。智子さんは幼い2人の子育てに追われながら、5年間大学に通い、椅子張り職人の資格を取得。“寂しい”と思う心の隙間を埋めるかのように、家事と育児、その合間に椅子張りの仕事に打ち込むという多忙な生活を17年間続けてきた。今では、この伝統的文化の継承を担っていきたいと考えるようになったという。
そんな智子さんに、妹から届けられたのは1枚のDVD。映っていたのは、25年前にイギリスで挙げた結婚式で、笑顔を見せる智子さんと妹の姿。あの時以来、初めて目にする映像だ。そこには、離ればなれになった今だから伝えたい、“これからも家族であることは変わらない”というメッセージが込められていた。智子さんは「大切な妹です」と涙をあふれさせ、25年前には予想もしなかったこれまでの人生を振り返るのだった。