今回の配達先はイタリア・フィレンツェ。彫金職人として奮闘する吉田真理さん(39)と、神奈川県に住む母・サチ子さん(67)をつなぐ。真理さんは8年前、30歳年上の師匠と結婚。母は「歳の差が余りにも大きいので結婚には反対だった。私も夫を亡くしたばかりだったので、娘もすぐにそうなって、ひとり残されるのではないかと思ってしまって…」と、複雑な思いを明かす。
真理さんと師匠で夫のジュリアーノさん(69)が2人で営む工房兼ショップは5年前にオープン。店にはアクセサリーを中心とした銀製品が並ぶ。真理さんが作るのは、たがねをハンマーで打ちつけながら、銀板に立体的な模様を成型するフィレンツェ伝統の「打ち出し」という技法を使ったシルバーアクセサリー。大胆なデザインの中に繊細なディテールが施されているのが、彼女のアクセサリーの特徴だ。
夫のジュリアーノさんは「打ち出し技法」の職人で、14歳からこの道一筋。フィレンツェでその名が知られたマエストロで、長く教会の聖杯や銀器、壺などを作って来た。そんな彼の技に魅了された真理さんは、自らのアクセサリーにも「打ち出し」を取り入れるように。伝統的な技を受け継いだことで、頭の中のイメージが、よりダイナミックに表現できるようになったと話す。一方、ジュリアーノさんも、日本文化を取り入れた“ぐい呑み”を制作するなど、真理さんと出会ったことで、これまでにない作品に取り組むようになったという。
真理さんが大学卒業後、ジュエリーの勉強をするためにフィレンツェに渡ったのが14年前。そこで真理さんはジュリアーノさんと運命的な“再会”を果たすことに…。実はその2年前、日本で開催された「フレンツェの職人展」に来日していたジュリアーノさん。その会場で、真理さんに初めて銀の打ち出しを教えてくれたのが彼だったのだ。真理さんは再会したジュリアーノさんに弟子入り。職人としての尊敬の気持ちはいつしか愛情に変わり、8年前、30歳の歳の差を乗り越えて結婚した。最初は反対していた母も、最終的には結婚を認めてくれた。ジュリアーノさんは「親なら反対するのは当然。それでも私と会ってくれて、2人の結婚を理解してくれた」と感謝する。
仕事を終え、ジュリアーノさんと2人で夕食を囲む時、真理さんは亡き父のことを思い出すという。父もジュリアーノさんも、お酒をゆっくり飲みながら、料理を一品ずつ、時間をかけて食べるところが似ているのだという。しかし、その父は娘の花嫁姿を見ることなく59歳の若さで亡くなった。真理さんは「これから5年先、健康で元気にいられるという保証は誰にもない。それなら、この先、たとえ5年であっても、この人と一緒にいることを選びたい」ときっぱり。仲睦まじい2人の姿を見た母は、「あらためて、いい夫婦だなぁと確認できました」と安心したようだ。
そんな母から届けられたのは、父の形見の「ぐい呑み」。“2人の時間を大切に、楽しんで生きてほしい”という思いが込められていた。真理さんは「びっくりです!ずっと欲しかったものです。このぐい呑みは、風合いすべてが父そのものの感じがするんです」と母に感謝。そして、父が大好きだった日本酒でジュリアーノさんと乾杯し、父を懐かしむのだった。