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#4287月2日(日)10:25~放送
フィンランド ・ヘルシンキ

今回の配達先はフィンランドのヘルシンキ。演劇への熱い思いを胸に、ひたすら演じることに没頭する武田結子さん(36)と、大阪に住む母・涼子さん(65)をつなぐ。結子さんがフィンランドに渡って6年。母は結子さんがどんな暮らしをしているのか分からないというが、「あの子が幸せならそれでいいで。ただ、食べていけているのか心配」と案じている。
 結子さんが活動するのは小劇場の舞台が中心。稽古期間もあるため年間3~4公演が限界で、ギャランティも格安だ。しかも、アーティストビザの結子さんは役者以外で収入を得ることができないため、生活はどん底。住まいは3人家族とルームシェアをして家賃を安く抑え、1週間を3千円の食費で過ごす。服はほとんどがもらい物で、切り詰めたギリギリの生活を送っている。「フィンランドに来てから普通に暮らせたのは1年ぐらい。あとは今思い返してもどうやって過ごしたのかわからないぐらいお金がなかった」と話す。
 そんな結子さんにとって今年初めての舞台が動き出した。彼女が長年温めてきた企画で、自分で予算を組み、資金を集めた手作りの自主公演だ。芝居はシェイクスピアの戯曲「マクベス」をベースに、フィンランドと日本を融合させた挑戦的な作品。フィンランド人の役者に加え、結子さんの師匠で、日本とヨーロッパで活躍する演出家の日野晃氏と舞踏家の高原伸子氏を招いた。連日続く白熱の稽古で、役者たちの演技が次第に同じ世界観を共有するようになり、やがて完全に一体となる。「誰が何と言おうと、意味のあることをやっていると、疑いなく感じる瞬間がある。そのために生きている」と結子さんはいう。
 高校を卒業後、アメリカに渡った結子さん。大学で8年間演劇を学び、その後アメリカで役者の道に進んだが、人種の壁に阻まれ、満足のいく活動ができなかった。仕方なく日本に帰国し、数々のオーディションに挑戦したが、すべて不合格。「日本の芸能界でいう“美しさ”の基準から自分は外れていた」と結子さんはいう。舞台に立てない失意の中、結子さんは留学時代の友人に誘われフィンランドへ。そこで演出家のミーラ・シッポラ氏に見いだされ、国民的演劇「キリストの復活祭野外劇」で、2万人の観客の前でキリストを演じるチャンスに恵まれたのだ。
 ようやくこの国に自分の居場所を見つけた結子さん。今、演劇にすべてを捧げる人生を歩けているのは、亡き父のお陰だという。アメリカ留学を決めた当時、父はリストラされて経済的に苦しい時だったが、何も言わずにローンを組み、送り出してくれた。その後も、自分の退職金を結子さんに送ってくれたという。また、父の教えが思わぬ形で結子さんを救ってくれたこともあった。貯金が底をついたとき、賞金稼ぎで出た移民のためのコンテストで「リンゴ追分」を歌って賞金100万円を手にしたが、実は高校時代、父に「『「リンゴ追分」をうまく歌えるようになったら歌の何たるかがわかるから、練習するといい』と言われ、ずっとこの歌を練習していたのだ。しかし、その父は結子さんの舞台を一度も見ることなくこの世を去った。
 そんな結子さんに母から届けられたのは、写真嫌いの父が唯一残した笑顔の写真。結子さんは「私の人生で唯一の後悔は、父に私の舞台を見せてあげられなかったこと」といって涙をこぼす。そして、母からの「今は幸せですか?」という問いかけに、結子さんは胸を張って「今までの人生で一番幸せ」と答え、母を安心させるのだった。