今回の配達先はカナダ・バンクーバー。専業主婦からカフェのオーナーになった日登美シーバートセンさん(40)と、愛知県に住む母・富美子さん(69)をつなぐ。結婚・出産を経て、30歳の時に製菓学校に入学し、製菓の道に進んだ日登美さん。2か月前にオープンしたカフェは早くも大人気で、毎日菓子作りに接客にと多忙な日々を送っている。母は「のめり込むと突き進む子。家庭や子育てはどうしているのか…」と心配している。
日登美さんの店は、パン屋とケーキ屋、そしてカフェスペースも備えたカナダでは主流のスタイル。人気商品は、小麦アレルギーの人も食べられるグルテンフリーのパンや、オーガニックの食材のみを使った自家製パンのサンドイッチなど。そして一番こだわっているのが、菓子職人として数々のコンクールで受賞経験を誇る日登美さんが手作りする種類豊富なオリジナルケーキだ。
カナダではチョコレートやバタークリームたっぷりの甘いケーキが主流。そのため、日登美さんが作る小豆などの日本の食材を使ったケーキや、卵を使わない軽やかで甘さ控えめのケーキは、健康を気遣う人たちに大人気なのだ。特に、カナダにはグルテンフリーのデザートを扱っている店が少ないため、噂を聞きつけたお客さんたちが次々とやって来る。
日登美さんは1日中カフェと厨房を行ったり来たり。朝7時から営業が終了する夜10時まで接客と菓子作りに大忙しだ。菓子作りはほぼ一人でこなしているため、店が終わった後も、翌日の仕込みに追われ、夫と子供が待つ家に帰れるのは深夜遅くになってしまう。
24歳の時、勤めていた会社を退職し、「もっと自分らしい人生があるはず」と、カナダに語学留学した日登美さん。アルバイト先でのちに夫となるカナダ人のロブさん(43)と出会い、26歳で結婚。28歳の時に長男(12)が生まれた。当時は子連れで行けるカフェもなく、友人を家に招いてはケーキを作って振る舞っているうち、それが「おいしい」と評判に。日登美さんは「じゃあ本格的に学んでみよう」と一念発起し、30歳の時に製菓の専門学校に入学。主婦業と子育てをこなしながら腕を磨き、就職したホテルでは製菓長に抜擢されるまでになった。
自分の可能性を追い求め、念願の独立開業に至ったが、家のことはロブさんと長男にまかせっきりで、2人には申し訳なく思っているという。家事を一手に引き受けているロブさんは「妻はよく頑張っている。彼女がもっと成功する姿を見てみたい」と応援してくれている。日登美さんは「息子に寂しい思いをさせている以上は、絶対に店を成功させなければ」と覚悟を語る。そんな彼女の頑張りの原点は、日登美さんが中学生のころに離婚し、女手ひとつで3人の子供たちを育ててくれた母にあるという。「母の弱音は聞いたことがない。私も似ているところはあるけど、まだまだ及ばない」。
献身的に支えてくれる家族のためにも、弱音を吐かず、日々全力で走り続ける日登美さん。日本の母から届けられたのは、彼女が成人式で着た振袖。母が苦しい家計の中、アルバイトを掛け持ちして誂えてくれたものだ。添えられた手紙には「自分の人生を楽しんで、決めた道を進んでください」と綴られていた。日登美さんは「母は離婚を決めたのは自分だからと、どんなに経済的に苦しくても、仕事が大変でも、一切泣き言は言わなかった」と振り返り、母の苦労を思って涙をこぼすのだった。