今回の配達先はフランス・パリ。多くの芸術家が暮らしたモンマルトルにあるスタジオで、共に写真家の夫と独創的な写真アートを生み出す井田晃子さん(44)と、群馬県に住む叔父・治さん(69)、叔母・栄さん(66)をつなぐ。21年前、芸術大学を卒業後パリに渡った晃子さん。両親はすでに他界しているが、叔父は「パリに渡ったのは画家だった彼女の父親と、大学で美術を学んだ母親の影響が大きい」と話す。
晃子さんが写真の題材にしているのは日常の何気ない食べ物と、大きさ1cmほどの人型のフィギュアたち。白いカマンベールチーズをゲレンデに見立て、その上に小さなスキーヤーのフィギュアたちを遊ばせて撮影するなど、独自のスモールワールドを描いたアート作品「ミニミアム(=小さな美味しさ)」を生み出している。フィギュアは鉄道模型などで使われるドイツ製のものを使用。既製品をそのまま使うわけではなく、イメージに合うように色や形を自分たちの手で細かく加工する。
ほかにも、“バナナを切って乾燥させるドライバナナの作業員”や“スイカの種を取ってくれる人たち”など、食べ物を舞台に小さなフィギュアたちが冒険を繰り広げる。これらは晃子さんが子供の頃から好んで絵に描いていた夢の世界だという。
この新しい表現方法は元々料理専門の写真家だった晃子さんが14年前に始めたもの。16年前に同じ写真家であるピエールさん(46)と結婚し、その2年後から「ミニミアム」を撮り始め、夫婦二人三脚でアイデア出しからフィギュアの細かな加工、撮影までを共同で行っている。その作品はポスターやパンフレットなどにも使われ、近年は評価が高まり、定期的に展示会も開催されるようになった。
画家だった父がスケッチ旅行でパリに訪れた際に、一緒に同行したのがきっかけで「いつかパリで何かを学びたい」と考えていた晃子さん。日本の芸術大学を卒業後パリへ渡ったが、その3年後、最愛の父は他界。しばらく失意の日々を過ごしたという。
父が愛し描き続けたパリで、まったく新しいアートに挑戦し続ける晃子さんだが、その一方で、7歳と10歳の2人の子供たちと過ごす時間をとても大切にしている。それは亡き父の影響だという。「優しい父でした。本当はずっと絵だけを描き続けていたかった人だと思うけど、どんなに忙しくても、必ず子供たちや家族のために時間を費やしてくれた」と父を懐かしむ。
そんな晃子さんへ叔父と叔母から届けられたのは、晃子さんが7歳の時に父と一緒に手作りした本。2人が祖母にプレゼントしたものが、遺品整理の際に出てきたという。本の中には亡き父が晃子さんのことを書いた手紙があった。そこには「晃子は優しい、いい子です。大きくなったらお父さんの跡継ぎをしてくれるそうです。お父さんとお母さんは山に小さな小屋を建てて、絵を描いたり、晃子ちゃんが作ってくれるご飯をうまいうまいと食べます」と綴られていた。晃子さんは「覚えてなかったです。こんなことを書いていたんですね…。これを見ると、お父さんもおばあちゃんも、ちゃんと見ててくれてるんだなと感じます」と感激し、涙をこぼすのだった。