今回の配達先は近年、急速な発展を遂げ、ビジネスチャンスにあふれる、カンボジアのプノンペン。まつげエクステサロンの経営者兼施術者(アイリスト)として奮闘する那須美祐さん(24)と、大阪に住む父・力弥己さん(49)、母・利香さん(52)をつなぐ。理想とするサロンを立ち上げることを夢見て海を渡った美祐さん。父は「内心、反対だったが、言い出したらやる子。覚悟を決めて背中を押した」と当時の思いを明かす。
専用の速乾性接着剤でまつげの根元に人工まつげを接着するエクステは1980年ごろに美容大国・韓国で誕生。日本には2000年ごろに伝わり大人気となったが、カンボジアで始まったのはここ数年のこと。プノンペンに今年1月オープンしたまつげエクステサロン「E lash」は、日本企業出資の元、美祐さんと、同じく日本から来た安富由佳さん(27)が経営し、現地スタッフ3人を雇って運営している。価格は平均40ドルほどと、平均月収が100ドルほどのカンボジアではかなり高額なため、お客さんは富裕層の女性がほとんどだ。
美容師学校で美容師免許を取得した美祐さんは、22歳で東京のまつげエクステサロンに就職したが、わずか1年で退社。その後、友人に出資者を紹介してもらい、カンボジアでサロンを作るチャレンジに打って出たのだ。今、美祐さんが一番力を入れているのが、カンボジア人スタッフの技術指導。親切・丁寧な指導を心がける理由は、相手に期待して指導に熱が入れば入るほど、繊細なカンボジア人は怒られていると思い込んでしまうからだ。それが理由で辞めてしまったスタッフが、この1年ですでに4人。「私の教え方が悪かったのか…」。新米経営者の美祐さんは悩み、悪戦苦闘する日々だ。
「理想のサロンを立ち上げる」と、強い思いを抱いて海を渡ったが、まつげエクステ未開の地・カンボジアには大きな問題があった。「日本のように、きれいに付けて当たり前ではなく、安いところではめちゃくちゃに付けられ、まつげエクステは痛いと思っている人もいる」と美祐さん。日本ではサロンを開業するのに、美容師免許に加えて衛生面や設備など、厳格な保険所の許可が必要だが、カンボジアではまだ規定が緩く、技術者の未熟さからトラブルに至るケースもあるという。このままでは業界全体が先細り、自分の夢が途絶えてしまうのではないかと不安を抱く美祐さん。「日本式のやり方で、カンボジアでも正しくきれいに付けるのが当たり前だと思ってもらえるようにしたい」と意気込む。
現在雇っているカンボジア人スタッフの技術も着々と向上しており、美祐さんは「まずは今の店をカンボジア人だけで回せるようにするのが目標」という。問題が尽きない異国で心が折れそうになる時もあるが、理想のサロンが実現するまでは日本には帰らないと心に決めている。
そんな美祐さんに、日本の両親から届けられたのは手作りの箱。中には家族と写った写真が散りばめられていた。添えられた手紙には「いつの日か、またこの箱の写真ように、一緒に過ごすことができるひと時が来ることを、変わらずに待っています」と綴られていた。両親の思いに触れ、涙する美祐さんは、「時間はかかるかもしれないけど、楽しみに待っていてくれたら嬉しい」と語りかけ、「ありがとう」と感謝の言葉をかけるのだった。