今回の配達先はドイツのベルリン。ケーキ職人として奮闘する油田美里さん(39)と、神奈川県に住む父・修一さん(68)、母・保代さん(68)をつなぐ。9年前、突然ベルリンへと渡った美里さん。両親は「反対したい気持ちはあったけど、引き止める理由が見当たらなかった。本当はそばにいてほしい」と、寂しい思いを明かす。
ベルリンの人気ベーカリーで働く美里さんは、この店唯一のケーキ職人。彼女が作るのは、伝統的なドイツケーキではなく、タルトやチーズケーキなど、日本で働いていた頃から作っていたレシピだ。「私がおいしいと思うものを作っているだけ。材料は安全なものを使っていて、添加物にも頼らないけど、特別なものではないし、複雑なレシピではないんですよ」と美里さん。シンプルだが食べるとハッとするおいしさがある彼女のケーキは大人気で、今では支店も増え、現在4店舗のケーキ作りを一手に任されている。
子供のころからケーキが大好きだった美里さんは、23歳から東京のカフェで本格的に修業を始めた。5年が経った頃、「自分の目でヨーロッパのケーキが見たい」と思い立ち、3か月間、旅をしながら毎日ケーキを食べ歩いた。「ベルリンのケーキはおいしくなかった。でも、みんなが“おいしい”と言って食べていた。私ならもっとうまく作れるのに、と。こんなに食べてくれる人がいるなら、私はここで生きていけるとイメージできたんです」。
9年前にベルリンに移住して以来、文字通り腕一本で生き抜いてきた。この店も、飛び込みで持参したケーキを食べてもらったところ、その場で採用が決まったという。今は毎日8時間、立ちっぱなしで休みなくケーキを焼き続ける美里さん。休日も新しいケーキを試作するほど、ひたすら大好きなケーキ作りに没頭し、充実した毎日を送っている。
両親については「あまり意見を言い合わない家族。ケンカをするような家族じゃなかった」という。特にベルリンへ旅立つときのことは鮮明に覚えている。「止められたとしても絶対に行くつもりでしたが、両親は”行くな“と言いたいのを我慢して、ただ悲しそうな顔をするから、余計につらくて…。一緒に居たくないな、と」。そんな複雑な気持ちを抱えてベルリンへ渡ったのだ。一方、母は「言えば悲しいだろうと思って言えなかった。本当は行かないでほしかった。今でも近くに住んでほしいし、結婚もしてほしいし、孫も抱きたい。でも、言えないんです」と、寂しそうに本音を明かす。
優しすぎる両親に反発したこともあったが、結局、今の自分の“ベース”は、母がいつも作ってくれた料理の味にあるという美里さん。そんな母から届けられたのは、手作りのチーズケーキ。小さい頃、いつも冷蔵庫に母手作りのケーキが入っていて、中でも一番のお気に入りがこのチーズケーキだった。添えられていた手紙には「少しずつ周りの人に認められ、美里のケーキを食べたいと注文されるまでになったあなたはパパとママの誇りです。いつか素敵な家族を作って、近くで暮らせるといいな、と思っています」と綴られていた。「日本には戻らない」。そう語っていた美里さんだが、両親の切なる思いを知って涙し、「いつか、近くで暮らせたらいいですよね…」とつぶやくのだった。