今回の配達先はアフリカ・ウガンダの田舎町・テグレス。電気も水も食料も満足にないこの町で、厳しい生活を送りながら体育教師として奮闘する前川哲成さん(25)と、滋賀県に住む母・広美さん(51)をつなぐ。半年前、青年海外協力隊員としてこの地に赴任した哲成さん。母は「赴任が決まった時は、家族みんな“よかったね”と喜んだんですが…。行ってみたら大変らしく、すぐに体重が10キロも減ったそうで…」と、心配している。
哲成さんが勤める「セベイ カレッジ テグレス」は、日本の中学・高校に当たる6年制の全寮制学校。近年のウガンダは学歴が無ければほぼ就職は不可能という学歴至上主義で、ここに通うのはエリートの子供ばかり。授業を受ける姿は真剣そのものだが、哲成さんの体育の授業となると様子は一変。時間になっても生徒は集まらず、しばらくしてようやく集まったかと思えば、みんなまったくやる気がない。哲成さんの言うことも聞いてくれず、授業は崩壊している状態だ。
実はウガンダで体育の授業が始まったのはわずか5年ほど前。生徒たちは体育というもの自体をよく理解できていないのが現状で、ましてや試験に関係ないため、無駄なものと考えているのだ。規律を重視する日本式の体育も、彼らには苦痛でしかないよう。「初めてこの学校の体育の授業を見た時、ただボールを蹴っているだけで何の学びもなかった。日本人として来たからには、日本式の体育を通して何かを学んでもらいたい。それを元に、社会に出ても自分で問題を解決できる力を身に付けさせたい。だから厳しく接しているんです」。哲成さんは強い信念を持って生徒に対峙しているのだ。
京都の教育大学を卒業後、青年海外協力隊に入隊した哲成さんは、訓練を経て半年前にウガンダへ派遣された。体育の授業を通して、社会性と精神力を養わせようと奮闘しても、彼の思いは生徒たちに届かず空回り。さらに、体育は無駄だと考えるウガンダ人の教師たちの中で孤立。次第に授業以外は引きこもっていったという。「一番つらかった時は、ウガンダ人が全員敵に見えた」と、哲成さんは振り返る。
だが、そんな状況でも逃げ出さなかったのは、ここアフリカで2年間の実務経験を積み、国連職員となって、貧困や格差にあえぐ人々をなくす仕事がしたいという夢があるからだった。この半年、つらい日々に耐え、生徒一人一人に自分の考えを説いていった結果、赴任当初は体育の授業に2,3人しか来なかった生徒も少しずつ増え、教師の中にも理解者が出てきたという。そんな哲成さんの苦労を初めて知った母は「大変だとは思っていましたが…まさかここまでとは」と涙をぬぐう。
そんな母から届けられたのは、ダンボールいっぱいの日本の食材。添えられた手紙には「私が一番心配しているのは哲が夢を失う事。つらい時もあるとは思いますが、大好きな日本食を食べて頑張ってください」と綴られていた。母のエールに、哲成さんは「我慢比べの厳しい道だと思うけど、日本に笑顔で帰れるよう、頑張っていきたい」と、決意を新たにするのだった。