過去の放送

#3888月14日(日)10:25~放送
アメリカ・ロサンゼルス

 今回の配達先はアメリカ・ロサンゼルス。チョークを使って路上に絵を描くチョークアーティストの西村秀二さん(43)と、兵庫県に住む父・紀志雄さん(76)、母・育代さん(75)、兄・圭介さん(45)をつなぐ。かつて両親の反対にあい、画家になる夢を諦めた秀二さん。父は「絵はあくまでも趣味でしかない」といい、兄も「絵で有名になるにはまだまだと思う」と、いまだアートの世界を目指すということを理解してもらえないよう。
 今年もロサンゼルス最大のチョークアートコンテストに参加することになった秀二さん。600人ものアーティストが一堂に集い、ショッピングモールの広場に、2日間に渡って作品を描き上げる。秀二さんが描くのは、写実的な技法を駆使した、まるで写真と見まがうような作品で、過去この大会で何度も優秀な成績を収めてきた。実は絵の専門学校で学んだ経験はなく、独学というから驚かされる。「最後は消えてなくなってしまうのがチョークアートの醍醐味」という秀二さん。制作過程そのものが路上パフォーマンスであることも大きな魅力だという。
 子供のころから絵を描くのが大好きで、いつしか画家を志し、中学卒業時には美術の専門学校に進学したいと親に相談。しかし許しをもらえず、結局進学校へ進み大学を卒業するという、親の望んだとおりの道を歩んだ。だが、アートへの思いは断ちがたく、大学卒業後、デザインの勉強をするため、資金を貯めてアメリカに渡ったのだ。
 家族は妻の美樹さん(41)と長男(14)、長女(7)。現在、秀二さんは広告代理店に勤務し、グラフィックデザイナーとして主に日系スーパーのチラシなどを作っている。デザイナーといっても、商品撮影も含め、何でもこなさなければならないが、家族を養うためには大切な仕事だ。
 そんな彼の目をもう一度アートに向けさせたのは美樹さんだった。誰に見せるでもなく、1人でコツコツと絵を描き続けていた秀二さんに、偶然街で見かけたチョークアートを「やってみてはどうか」と勧めたのだ。秀二さんは瞬く間にチョークアートに没頭。しかし、家族を養えるほどの収入を得られるわけではない。「チョークアートで食べていけるなら、間違いなく会社勤めよりそっちを選ぶ」と秀二さんはいう。チョークアーティストとして描き始めて7年。「チョークアートの限界を突き抜けた時、写真よりもっとリアルなもの、写真では表現できないことができるのかもしれない」。秀二さんは今、チョークアートに新たな可能性を感じているという。
 コンテストでは、のべ22時間を費やし、渾身の大作を完成させた。描いたのは今年1月にこの世を去ったデヴィッド・ボウイの細密な肖像だ。“写真を超えるリアル”。その高みを目指す秀二さんの作品は、道行く人の心を奪ってしまうほどの力を放ち、200を超える作品の中からナンバーワンに選ばれた。この大会3度目の優勝だった。
 日本を離れて20年。家族のためにサラリーマン生活を送りながら、アートへの情熱を静かに燃やし続ける秀二さんに、両親と兄から届けられたのは寄せ書き。父が綴ったのは“未来に夢を持ち、家族の和を大切にすること”という言葉で、脳梗塞の後遺症のため不自由になった手で懸命に書いたものだった。秀二さんはその言葉を噛みしめ、「これからはもう少し密に連絡を取り合いたい」と、年老いた両親を思いやるのだった。