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#3826月26日(日)10:25~放送
ジョージア

 今回の配達先はロシアとトルコの間、黒海の東側に位置する国・ジョージア。元は「グルジア」と呼ばれていたが、去年、日本での呼び名が改称された。その首都トリビシのジョージア国立バレエ団で奮闘するバレエダンサーの鷲尾佳凛さん(20)と、京都に住む母・友香さん(48)をつなぐ。母の影響でバレエを始めた佳凛さんだが、母は「男性がバレエで生きていくのは現実的じゃないと思っていた」と、バレエにのめり込んでいく息子にずっと不安を抱いていたことを明かす。
 ジョージア国立バレエ団を取り仕切るのは舞台監督のニーナ・アナニアシヴィリさん。名門ボリショイ・バレエ団のプリマを20年以上務め、アメリカン・バレエ・シアターでもトップに立った、世界最高峰のバレリーナと称された人だ。このバレエ団に所属するダンサーはおよそ70人。佳凛さんは現在「コリフェ」というポジションで、主に集団で踊る群舞を担い、下積みを重ねている。「プロの中でも頂点で踊って来たニーナだからこそ、彼女が教えてくれることは僕の体にスッと入ってくる」と、佳凛さんは彼女のもとでバレエを学べることに感謝する。
 彼がバレエを始めたのは小学1年生の時。母が通っていたバレエスクールで一緒に習い始めたのがきっかけだった。以来14年間、バレエ一筋にやって来たが、決して目立つ存在ではなかったという。ライバルたちがどんどん活躍していく中、コンクールでなかなか賞が取れなかった佳凛さんは、劣等感にさいなまれていた。そんな彼をいつも一番近くで支えてくれたのが母だった。「母は“バレエとは違うことをやってみれば?”“嫌なら辞めてもいいのよ”って、逃げ道を用意してくれた」。男性がバレエで生きていく厳しさを知る母の言葉が、今も佳凛さんの胸に残っているという。
 その後もバレエへの情熱が冷めることはなく、高校3年の時には念願叶ってポルトガルで1年間のバレエ留学を経験。その時に出場したコンクールで審査員を務めていたのがニーナで、佳凛さんをジョージア国立バレエ団にスカウトしたのだ。ニーナは「彼はとても才能あるダンサー。これからもっと成長するはず。今後は彼のソロパートも少しずつ増やしていくつもり」と、佳凛さんを高く評価する。
 その言葉通り、現在公演中の、ジョージア国を舞台にした演目「ゴルダ」では、主人公の3人に次ぐ4番手のソリストとしてニーナに大抜擢された。半世紀以上の歴史がある国民に人気の作品で、外国人がこの役を演じるのは彼が初めてだという。
 「いつか主役として舞台に立ちたい」。夢に向かい一つ一つの舞台に全力でぶつかっていく佳凛さんに、母から届けられたのはバレエの衣装。かつてコンクールでずっと賞を取ることができなかった彼が、初めて入賞した時に着ていたものだ。添えられていた母の手紙には「小・中学生の頃は、凛がどんなにバレエが好きでも、バレエで生きていくことは無理だと決めつけていました。この衣装を着て踊った中学3年生の夏のコンクールで入賞した時は本当にうれしかった。凛がバレエを続けていくことを素直に応援してもいいかと思うようになりました」と、綴られていた。佳凛さんも、苦労の末に入賞を掴んだ時の喜びを振り返り、母がずっと応援してくれたことに感謝し涙する。「もっと頑張って、このバレエ団でちゃんとした主役を踊れるようになりたい。その時には母にジョージアまでの航空券をプレゼントしたい」。佳凛さんはそう母に約束するのだった。