今回の配達先は西アフリカのガーナ。首都アクラで感染症の新薬開発のため、寄生虫の研究に打ち込む研究者の大橋光子さん(42)と、長崎に住む母・和江さん(71)、兄・俊朗さん(48)、妹・明子さん(38)をつなぐ。ガーナは郵便事情が悪く、家族が送った手紙も思うように届かないそうで、そんな地で独り奮闘する娘を、母は「寂しかろうねぇ」と案じている。
光子さんが働くのは、ガーナ最高峰の教育機関・ガーナ大学にある「野口記念医学研究所」。この地で黄熱病の研究中に命を落とした野口英世の名を冠した研究所で、アフリカのさまざまな感染症について、日本とアフリカ両国が共同で研究を行っている。
光子さんが研究しているのは風土病「アフリカ睡眠病」の原因となる寄生虫。この病気は進行すると長期の昏睡に陥り、眠るように死んでしまうそうで、光子さんは若いガーナ人研究者たちのチームを率い、この病の原因となる寄生虫に有効な成分を見つけ、製薬につなげるための研究を続けているのだ。
この研究を始めて6年。5年目には、古来よりガーナの人々に伝わる生薬の伝統知識を利用して、ついに「アフリカ睡眠病」に有効な成分を突き止め、アメリカ特許と国際特許を出願する成果を得た。「この病は人だけでなく、家畜の病気でもあるので、もし根絶できたら、アフリカの食糧問題が解決できるともいわれているんです」と光子さん。それだけに、この研究への期待は大きい。
日本の大学で生物学の研究をしていた光子さんがガーナにやって来たのは2010年のこと。「日本にいる時は研究だけやっていればよかった。自分の成果を上げるために研究をしていました。それがガーナに来て大きく変わった。人生そのものが変わった気がします」と光子さん。研究所の実験では直接手を出さず、なるべく若い研究者たちに任せるという。世界的にはまだ認められていないガーナ人の研究者に最新の研究手法を伝え、彼らのキャリアアップを図るのも彼女の大事な仕事の1つなのだ。
そして、彼女が研究と並んで気にかけているのが、彼らの将来のこと。ガーナでは研究者として生きていくのは非常に難しい。「“野口研”には今200人の若い研究者がいますが、彼らがキャリアアップするには海外からのサポートが欠かせない。でも奨学金などのチャンスをもらえるのは年間2,3人ほど。あとの人はひたすら機会を待つ。プロジェクトがなくなって給料がなくなっても、ここに来ないとネットワークすらないので、無給でも毎日ここに来て一生懸命実験を手伝っているんです」。
かつては研究者として自分の成果を追い求めていた光子さんだが、若い研究者たちの熱い思いに触れ、追い求めるものが変わってきたのだ。「今の夢は、彼らが世界の研究者たちと同等に認められること」。そう語る光子さんの姿に、兄は「大人しかった子供の頃と違って、今は生き生きしている。ガーナに行ってよかったんだなと思います」と、しみじみ語る。
そんな光子さんに届けられたのは、母手作りのイチゴジャム。小さいころからイチゴの季節になると母が作ってくれた思い出の味だ。添えられていたのは、懐かしい家族写真を集めたフォトフレーム。光子さんは「うれしいですね。宝物にします」と、さっそく自宅の壁に飾り、日本で見守ってくれている家族を想うのだった。