今回の配達先は、建設ラッシュが続く中華人民共和国。北京で建築家として奮闘する青山洋子さん(35)と、東京に住む父・秀行さん(62)、母・貴恵子さん(61)をつなぐ。洋子さんからは毎日両親の元へメールが届くそうだが、「メールが来るのはいつも夜中の3時頃。毎日遅くまで仕事をしているのが分かる。どんな生活をしているのか…体が心配」と両親は案じている。
北京市内に設計事務所を構える洋子さんと夫の周平さん(35)は、以前に勤めていた設計事務所で知り合い、2年前に独立。夫婦で起業し、現在は4人の中国人スタッフを抱えている。事務所を開設して1年。2人が手掛ける斬新なデザインと丁寧な仕事ぶりは高い評価を受け、これまでに中国全土から90件もの依頼が舞い込んだという。現在もいくつものプロジェクトを抱えており、毎日夜中まで残業する多忙な日々が続いている。
今回、洋子さんは打ち合わせのため飛行機で西安へ。大手書店の1階と4階の本棚をリニューアルしてほしいという依頼に応え、プレゼンテーションを行ったのだ。洋子さんはこの書店で、客がいたるところで立ち読みならぬ“座り読み”をしている光景を見て、「この状況を皆が普通だと思っている感覚をぜひ変えたい」と、その問題点を解決する、内装すべてのリニューアル案を提案した。会議に出席した副社長や役員、店長らは皆、洋子さんの大胆なアイデアにすっかり魅了されたようで、急きょ、改装予定になかった箇所も下見することに。最終的に古くなった建物全体を改装することになりそうだという。
大学で建築デザインを専攻した洋子さんは、知人の紹介で、中国の設計事務所に就職。元々、父が中国に単身赴任していた関係で、大学生の時に初めて家族で中国を訪問。その後も幾度となく中国を訪れ、中国人の大胆かつ大らかな人柄と、その文化に惹かれていったという。互いに主張を激しくぶつけ合う中国ビジネスの世界では、思わぬトラブルに巻き込まれることも日常茶飯事だが、今ではすっかり動じなくなったという洋子さん。「“またか!”と思う事も多く、現場でケンカもします。でも、2時間後には“一緒にご飯を食べよう”といわれる。その瞬間が好き」という。
幼い頃から女の子らしい遊びが好きだった妹の純子さんとは対照的に、ブロック遊びばかりしていた洋子さん。当時は週末になると、山梨にある祖父母の田舎へ出かけ、大自然の中で絵を描いたり、陶芸をしたり、姉妹で仲良くモノづくりをすることが大好きだったという。しかし2010年、その妹が26歳の若さでがんのため他界。洋子さんは「まさか家族にそんなことが起こるなんて…」と当時のショックを語る。葬儀の後、落ち込んでいる両親を置いて北京に戻らなければならなかった時の複雑な思いを明かし、「毎日つまらないことでもいいから、両親とメールで通信し合うことにしたんです。もう5,6年続いています。両親が日頃どんなことをしているのかも知りたいし、2人が私のメールの内容で語り合ってくれたらうれしい」。メールの真意を知った母は「毎日メールをくれる意味を初めて知りました」と、洋子さんの気遣いに涙する。
そんな洋子さんに両親から届けられたのはオルゴール。添えられた手紙には「あなたが小さい頃、山梨で妹の純子が作ったオルゴールです。曲は『DO YOUR BEST』。“最善を尽くせ、しかも一流たるべし”という意味の曲です。離れていても、私たちも純子もあなたを見守って応援しています」と綴られていた。洋子さんは「うれしい…ありがたいです。妹のことを思い出すと泣けてきます。私も頑張っていきたい」と、“DO YOUR BEST”の言葉を噛みしめるのだった。